貴方の為に、私の為に
E-Hの傷を癒すため、何か方法が無いか考えるセレネー。だが、あまり良い方法は思いつかない。きっかけを探しに今度は資料室へ向かう。
「資料室で地球にあるものを見てみようと思うのですが、何か記憶に残ってる物ものはありますか?」
「覚えてません」
E-Hはそう冷たく言い放ったが少し柔らかい雰囲気になったのをセレネーは見逃さなかった。何か記憶に残ってるものがあるのだろうか。
「では、片っ端から資料を見ましょう。時間は沢山ありますので」
「何故そこまで私に構うのですか」
「貴方が大切だからです」
「何故大切なんですか。貴方が地球に行きたいからそう言ってるんじゃないんですか?」
「いいえ、違います。全て貴方の為に行います。口から出任せを言っているのではなく、本心です。何故大切か?と聞かれると、適切な言葉が見つかりませんが、貴方を守ること、大切に思うこと、寄り添うこと、全てがシステムとして組まれていて、行うことが当たり前なので、それ以外の行動や感情はありません」
淡々と伝えるセレネーだが、E-Hはあまり信じていないようだ。
「あぁ…そうですか。それはそれは…偉大なことですね」
E-Hが初めてセレネーの顔を見た。そしてすぐに目を逸らした。
「はい。とても偉大なことです。任せて頂けてとても光栄です」
E-Hは、また馬鹿げたことを…と呆れているが、顔を見てセレネーが本心を言っていると少し信じようとしている。セレネーの顔は口以外が見えず表情が分かりにくいが、セレネーを信じればE-Hにも感情が伝わるようになるだろう。
「さぁ、資料を見ましょう。生物は能力体験室で見たので、資料は見なくていいでしょう。では…娯楽の資料を。いつの時代がいいですか?どんなことでもいいので、覚えていることはないですか?貴方の為に貴方が変わる時です」
「なんで私が私の為に…」
「では、私の為に考えてみてくれませんか?例えば…私が好きそうな物はなんだと思いますか?」
「貴方が好きそうな物…?そんなのわかるわけ…」
「まぁまぁ。そう難しく考えず。第一印象などを参考にしてみてはどうでしょう?」
「んー…読書が好きそうです」
「よく分かりましたね。好きですよ、読書。私のことを考えて頂けて嬉しいです。では、詩や小説などを制作した人物を見てみましょうか。…遠回りかもと思っても辞めてはなりません。よろしいですか?」
「…わかりました。見てみます」
初めて否定しなかったE-H。セレネーはE-Hの性格などから、E-Hは自分の為に何かするのは苦手だが、相手の為に何かするのは苦手ではない。と仮定し、質問の仕方を変えてみた。その結果、E-Hは否定だけでなく、考えを伝えてくれた。また1歩、2人で進むことが出来た。この調子でゆっくり進もう。
2人は小説家の資料を主に見て、気になることを探した。セレネーはE-Hの好きそうな人物を、E-Hはセレネーが好きそうな人物を探し、伝えあった。途中でE-Hがセレネーに問う。
「セレネー、これって…?」
「それは著者が 宮沢賢治 様。題名が「セロ弾きのゴーシュ」です。セロとは、チェロという弦楽器のことです。資料をお持ちしましょうか?」
「いや、自分で探します」
「では、音楽部門へ」
E-Hが自ら行動したのを見たセレネーは気持ち数値が喜びへ振り切っていた。初めての出来事だ。E-H本人が気付いているのかは分からないが、E-HがE-Hの為に考えた。資料を読むことに没頭し、誰の為かなど考えずただ純粋に気になったことをセレネーに共有したことが大きな進歩だ。この時を絶対に忘れないと心に刻んだセレネーだった。
次は何をしよう。