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第6話  少女と猛獣

 振り返ると、立っていたのは幼馴染のパメラだった。


 燃えるような赤い髪に、意思が強そうな表情、昔から全然変わってない。違うのは制服だけ……パメラは特別学級の制服を着ていた。


 

 「いいわね、アンタたち普通学級は早く帰れて。私たちの学級はまだ授業があるのに、(うらや)ましいわ」


 「ああん、そんな事言うために呼び止めたのか! 相変わらずいい性格してんな、お前は」


 「何よ!」


 「何だと!」



 アルと怒鳴り合ってるが、これは昔からだ。こう見えても僕たちは仲がいい、家が近所だったこともあり、小さい頃からよく遊んでいた。


 パメラが魔法の才能を認められ、特別学級に行くまでは……。


 

 「まあまあ」



 僕が止めに入ると、二人は「フンッ」と顔を()らす。



 「ちょっとルウト! こんな奴と一緒にいるとバカがうつるわよ。あんた頭はいいんだから」


 「おい! 行くぞ、ルウト。見せたいものがあるんだろ!」


 「あ、うん……じゃあまたね、パメラ」



 パメラと別れて学院を後にする。特別学級と普通学級の校舎が別れているため、パメラに会う機会は少なくなっていた。


 もっとも合同授業などもあるから、まったく会えない訳じゃないけど……。


 校門を出てから振り返ると、校舎に戻ろうとするパメラの横顔が見えた。どこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?



 ◇◇◇



 「――で、俺に見せたいものって何だ?」



 学院から家に帰った後、コロを連れだって森へ来ていた。



 「うん、コロのことなんだけど……」


 「コロはこの前、見せてもらったじゃないか」


 「違うんだ、見ててよ」


 

 僕はコロの前に立ち、ガラスの板を出した。左下にある【飛F】の文字を右上へと移動させる。



 「プウゥ……」



 コロが(うな)り出し、変化が始まった。背中の体毛が盛り上がり、その中から翼が現れる。コロは一生懸命、翼を羽ばたかせフラフラと僕の胸元まで飛んできた。


 コロが近くまで来ると、抱き寄せてよしよしと頭を()でる。


 アルは目を点にしていた。



 「今、羽が生えて……飛んだ? どういうことだよ、ルウト!」


 「へへへ、実はね」



 僕は今までのことをアルに話した。コロは森で捕まえたんじゃなく、ガラスの板から卵として生まれてきたなど、全部を。



 「ええ~、信じられないな。よく分からないけど、そのガラスの板、魔法っぽいってことだけは分かるぞ」


 「やっぱりアルもそう思う?」


 「ああ、きっとルウトに魔法の才能があったんだよ!」



 本当に魔法かどうかは分からないけど、アルにそう言ってもらえて嬉しかった。コロも楽しそうに、僕の顔をペロペロと舐めている。


 他にもアルマジロの硬い皮膚や、兎ネズミの足なども再現できることを見せると、アルは興味深そうにコロを観察していた。


 そんな時、パキッと木の枝が折れる音がする。


 何だろうと思って、音の鳴った方に視線を移すと、灰褐色(はいかっしょく)の毛並みに大柄な体格の影が”のっそ、のっそ”と、こちらに近づいてきた。


 それは二メートル以上ある大型動物――



 「まずい! 灰色熊だ!!」



 アルが大声で叫ぶ。灰色熊は魔獣ではないものの、普通の動物の中では最も狂暴だと言われている。


 本来ならこんな森の浅い場所にいるはずがない。



 「どうして……」


 「ルウト! 逃げるぞ、来い!」



 アルに手を引かれ、走ろうとした時、コロの声が聞こえた。



 「プウーーッ!」


 「グガァァアーー!!」



 コロが灰色熊に向かい、飛び跳ねながら足に噛みつこうとしている。


 灰色熊も爪で引っ掻こうとするが、コロの硬い皮膚に阻まれてダメージを与えられないようだ。



 「コロ!」


 「クソッ!」



 アルは近くにあった、少し大きい木の枝を拾い上げた。



 「ルウト! 灰色熊の足は凄く速いんだ。全員じゃ逃げ切れない。俺が気を引いてる間に、コロを連れて逃げろ!」


 「そんな!」



 アルは木の枝を振りながら、灰色熊に向かっていく。そんなことしたらアルが無事じゃ済まない。僕はガラスの板に目を移す。



 「コロなら出来るかもしれない……」



 コロの能力の中から、戦闘に不向きそうな【飛F】を解除した。まだフラフラとしか飛べないから役に立たない。



 「アル! コロに任せよう。こっちに来て!!」


 「ええっ!?」



 アルは驚いた表情で、不安げにこちらに来た。

 


 「どうする気だ、ルウト」


 「コロは他の動物の能力を持ってる。ひょっとしたら灰色熊でも追い払ってくれるかもしれない!」



 僕とアルは少し離れた場所から、コロを見守ることにした。コロだけ置いていく訳にもいかないし、助けを呼ぼうにも近くにいる大人は母さんぐらいだ。


 近所の家までは、かなり距離がある。


 祈るような気持ちで見ていたが、コロは意外と善戦していた。灰色熊の足に噛みつき、相手が攻撃してくるとピョンピョンとかわしていく。


 たまに爪で引っ掻かれても、ダメージを受けてるようには見えない。


 アルマジロの外皮は思いのほか丈夫なようだ。何度目か噛みついた時、熊は悲鳴に近い鳴き声をあげた。


 コロは、熊の足の肉を噛み千切ったようだ。


 ムシャムシャと咀嚼(そしゃく)するコロを見て、ハッとする。「もしかして――」そう思い、ガラスの板を確認する。


 ガラスの左下に、今まで無かった【力E】の文字が表記されていた。



 「やっぱり!」



 全部食べなくても、動物の一部を取り込めば能力が使えるんだ! 僕はすぐに【力E】の文字をコロの画像の右横に移動させる。


 コロの全身の毛が灰褐色に変わり、筋肉が盛り上がっていく。


 一回り大きくなったように見えるコロは、「フーッ!」と力強い鳴き声を上げ、灰色熊に飛び掛かった。


 衝撃で後ろに倒れた灰色熊は、驚いたように慌てて起き上がる。


 さっきまで力では全然歯が立たなかったのに……その変化の大きさに僕も驚いていた。【力】の横の表記が[F]ではなく[E]になっている。


 これが能力の強さを表しているのは間違いなさそうだ。


 灰色熊は牙を剥き、コロに襲い掛かる。コロは強化された後ろ脚に力を溜め一気(いっき)に飛び上がると体を丸め、高速回転する弾丸となって熊にぶつかった。


 熊の鼻っ柱に直撃すると、「キャンッ」と情けない声を上げ、灰色熊は森の奥へと逃げていく。


 アルマジロの硬さでぶつけられたんだ。そうとう痛かったと思う。



 「すげー、すげーよルウト! コロが灰色熊に勝ったぞ!!」


 「うん、ヒヤヒヤしたけどね……」



 アルが大喜びする中、コロがこちらに向かって走ってくる。その表情は少しだけ凛々(りり)しくなったように見えた。


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