第5話 模索と変化
「スナアルマジロだ!」
見つけたのは、ちょっと珍しい動物だった。
頭と背中の皮膚が堅く、丸まりながら攻撃してくる。砂地などに多くいることから、その名がついたアルマジロだ。森にの中にいるのは珍しい。
普段なら近づかないが、今日は違う。
「コロ!」
「プーーッ!」
コロが勇ましく走ってくる。相変わらず遅いけど。
コロとアルマジロが向かい合い、睨み合う。この動物は兎ネズミと違って、そんなに速くは動けないからな。追いかけ回す必要がない。
「がんばれ、コロ!」
コロは噛みつきに行くが、硬い皮膚には、なかなか噛が通らず、アルマジロも丸まって体当たりするが、コロのもふもふの体には効果が薄い。
お互い、一進一退の攻防を繰り広げた末……。
二時間後――
アルマジロは疲れ果て、仰向けに倒れた所をコロに噛みつかれた。背中の皮膚は硬くても、お腹は柔らかいようだ。
コロがムシャムシャ食べてるのを耳を塞ぎ、目を瞑って見ないようにする。
コロが食べ終わったようなので死骸を埋めてあげなきゃと思い、目を開けると、何も残っていなかった。
「え? 硬い所も全部食べたの!?」
コロはお腹をパンパンにして「プーッ」と鳴いている。
どんな歯をしてるんだろうと気になったが、取り合えずコロをガラスの板で確認した。【飛F】、【速F】の下に、更に【硬F】の表記がある。
スナアルマジロの硬さを取り込んだってことかな……。だけどコロに触っても全然硬くないし、いつものようにモフモフのままだ。
結局、能力をどうやって使うのか分からないまま家に帰ることにした。
夜―― 僕はベッドに寝転がりながら、ガラスの板を見ている。これがゲームのような要素を含んでるのは間違いないと思うけど、説明書が無いのでまったく分からないな。
ガラスの中にある【飛F】など文字をいじっていると、ある事に気づく。
「あれ……? この文字、動くぞ」
ガラスの中にあった文字は、指で押さえながら移動させることが出来た。左下にあった文字をガラス板の右側まで持ってくる。
指を離すと元に戻ってしまったが、これは大きな発見だ。
色々試してみる。コロの画像の右側に【飛F】の文字を持っていくと、ピタッと文字がはまったように動かなくなった。
すると――
「プウゥ……」
コロが唸り声を上げる。何だろう? と思っていると、コロの背中が盛り上がり始めた。モフモフの体から、弱々しいが確かな翼が生えてくる。
「これは……」
ほんの数秒で、鳥のように羽のある姿になった。コロはご機嫌な様子で自分の背中にある羽を見ている。
「プーーッ!」
ベッドの上で一生懸命羽をバタつかせると、コロはゆっくりと浮き上がる。浮いたといっても僕の胸の高さぐらいを、フラフラしているだけだが……。
不安定で、いつ落ちるか心配になってしまうため、つい手が伸びる。支えたくなる気持ちを抑え、「がんばれ!」と思いながら見守っていると十数秒で床に降りてきた。
コロは「一仕事終えました」みたいな満足そうな表情で、こっちを見ている。
正直、あまり上手な飛び方では無かったけど、浮き上がっただけでも驚きだ。練習すればもっとうまくなるかもしれない。
「それにしても凄いなコレ、こんな事が出来るのか……」
僕は移動した【飛F】の文字を、もう一度元の場所に戻してみる。変化はすぐに現れた。
「プウゥゥ……」
コロは踏ん張るような鳴き声を上げると、羽は徐々に縮んでいき完全に無くなってしまう。元に戻せる仕組みなんだ。
「コロはかわいいし、姿は変わらない方がいいよね」
突然、羽が生えたことには驚いたけど、なるほど能力はこうやって使うのかと納得する。今度は【速F】を画像の右側に移動させた。
コロはまた唸り始め、短かったはずの後ろ脚が長く伸びていき、しなやかな筋肉のある足へと変化した。
「まるで兎ネズミの足みたいだ」
コロは一跳ねで大きく飛び上がり、ピョンピョンと動き回る。素早さも大幅に上がっているようだ。
「すごい、すごいよコロ!」
「プゥプーーッ!」
一緒に喜んでいると、コロは僕に飛びついてきた。勢いがあり過ぎて僕は後ろに倒れ、タンスにぶつかって辺りの物を盛大に落としてしまう。
「ルウト! 何してるの、早く寝なさい」
「は、はーい!」
大きな音が響いたため、母さんにまで聞こえたようだ。静かにしないと……。僕はコロをベッドの上に乗せ、再びガラスの板に目を落とす。
今コロの画像の右横に【速F】があるが、能力が重複できるか試そうと【硬F】の文字も画像の右横に持ってきた。
コロの体毛が変化し、スナアルマジロの硬い皮膚が再現される。
「やっぱり、複数の能力が使えるんだ」
今ある能力は三つだけだから、全部試してみようと思い、さっき使った【飛F】の文字も移動させようと指をつけた。
「あれ? 動かないぞ」
【飛F】の文字が薄い灰色になっている。一度使うと使えなくなってしまうんだろうか? あるいは今日一日だけ使えないとか、制約があるのかな?
それに関しては明日にならないと分からないか……。
二つの能力は元に戻さず、しばらく観察することにした。三十分ほど経つと何もしていないのに、コロは自然に元の姿に戻っていく。
このことから能力の使用には時間制限があることが分かった。
【速F】と【硬F】も文字が薄くなっている。能力が使えるようになるかは明日確認することにして、その日は就寝することにした。
翌日――
僕は朝起きてすぐにガラスの板を出し、文字を確認した。昨日、薄くなっていた文字の表記は元に戻っている。
ホッと胸を撫でおろす。
どうやら一日一回づつではあるけど、繰り返し能力は使えるようだ。制約はいくつかあるようだけど、すごい能力であることは間違いない。
まだ寝ている、あどけないコロの顔を見ているとそんな凄い動物には見えないけど……。
とにかく、この事をアルには伝えようと決めていた。昔から何でも話してきたし、隠し事はしたくないから。
学院へ行く通学路でアルと会った時――
「今日、家に遊びに来れない? 見せたいものがあるんだ」
「いいけど、何だよ、見せたいものって?」
「ふふふ……それは来てからのお楽しみだよ」
「何だよ、変な奴だな」
学院では数学や地学、歴史学、生物学、社会学などを学ぶ。高等部とは言ってもまだ1回生なので、それほど難しい内容ではない。
僕は座学が得意だけど、アルは苦手でいつも眉間にしわをよせて、頭を掻きながら問題を解いている。
一般学級には無いけど、特別学級には魔法や政治学の授業もあるようだ。
僕は少し羨ましかった。
勉強しても魔法を使う事なんて出来ないし、政治に関わることも無いだろうけど、どちらの授業も面白そうだと思っていたからだ。
アルが聞いたら「うげーっ」って言いそうだけど。
授業が終わって二人で帰り支度をする。アルはそのまま僕の家に来ると言うので、校舎を出て帰ろうとすると……。
「待ちなさいよ!」
唐突に声をかけられた。