第3話 成長と能力
「何すんだ!!」
アルが大声で激怒する。僕はこれ以上揉めたくなかったので、何とかアルを止めようとした。
拳を力一杯握りしめ、今にもグランドに殴り掛かりそうだ。
「平民は端っこを歩けばいいんだよ! 行くぞ」
グランドと、その取り巻きは笑いながら行ってしまう。「くそっ」っとアルは怒っていいたが、それより蹴飛ばされたコロが心配になった。
急いでコロが入ったバッグに駆け寄り、中を覗くとコロは何事も無かったように「スピーッ」と呑気に寝ている。
「凄い……ある意味、大物かも」
「大丈夫だったか? バッグの中の動物」
「うん、大丈夫。名前は“コロ”って言うんだ。モフモフしてるから蹴られても平気だったみたい」
僕たちは他の生徒に見つからないように、コロを誰も使ってない空き教室のロッカーに入れ、授業を受けるため教室に向かった。
授業の合間に様子を見に行き、お昼にはアルと二人でご飯も食べさせる。コロは食べている時以外はほとんど寝ていた。
ちょっと呆れもするが、おかげで他の生徒に見つからずに済む。
アルと三叉路で別れ学校から帰宅する。これから母さんにコロを飼う事を認めてもらわないといけない。
「どういう事なのルウト、突然そんな動物連れて帰ってきて」
「帰りに拾ったんだ。すごくかわいいから……ねえ母さん、飼ってもいいでしょう? 僕が責任をもって育てるから」
「もう、困った子ね。昨日は倒れたと思ったら、今日は変な動物を連れてきて……狂暴な動物だったらどうするの?」
「大丈夫だよ。大人しいし、それに見てよこの瞳、悪い動物に見える?」
「プウ~」
コロは、かわいい顔で母さんを見つめている。この愛眼を跳ね除けられる人間はいないはずだ。実際、母さんもかわいい動物には弱い。
「もう、しょうがないわね。お父さんに相談してみましょう、お父さんがダメって言ったら諦めなさいよ」
「うん、分かった」
これで第一段階クリアだ。後は父さんの許可さえ貰えば、今後もコロと一緒に暮らしていけるぞ。
しばらくして父さんが仕事から帰ってきた。役場で働く父さんは、カッチリとした制服を脱いで窮屈そうなチョーカーを外している。
いつコロの話を切り出そうか考えていると、「夕食の時がいいわよ」と母さんに耳打ちされた。僕もその方がいいと思い、夕食時に伝えると――
「別にいいんじゃないか」
父さんは拍子抜けするほど、あっさり認めてくれた。銀縁メガネのブリッジを指でクイッと持ち上げ、やさしい表情で微笑む。
「危険な動物ならまだしも、そうじゃないなら構わないだろう。ただし、もし成長して狂暴になったら森へ帰すんだぞ。いいな、ルウト」
「うん、分かったよ父さん!」
「ちゃんと面倒も自分でみるのよ」
「もちろん!」
父さんと母さんの許可が下りたので、安心して部屋に戻り、寝ているコロを持ち上げて喜んだ。相変わらず、鼻提灯を膨らませて熟睡している。
まあ寝てても、かわいいからいいけど………コロをベッドに寝かせて頬っぺたをプニプニと触っていた。この“モフモフ”した感じがたまらなく愛らしい。
『ピロリロリン!』
「ん?」
何の音だ? 変な音がしたけど……辺りを見回しても特に何も無い。
「もしかして……」
僕はガラスの板を手の中に出現させる。「あっ」と思わず声が出た。ガラスの表面には卵の映像がクルクルと回っている。
二つ目の卵だ! コロの時と違って白い色だけど。まさか、また出てくるとは思ってなかった。
少し躊躇ったが、指でガラスの表面をタップする。一瞬、光が辺りを包み「ボトッ」っと聞き覚えのある音がした。
ベッドの上に、コロの時と同じ大きさの卵が落ちている。
「やった! 本当に、また卵が出てきた」
卵の殻にはすぐにヒビが入る。僕はワクワクした気持ちで、何が出てくるのかを観察していた。
「クウェェエ!」
現れたのは灰色がかった鳥だ。羽をバサバサ動かしながら「クエ、クエ」と鳴いて、ベッドの上を歩き回っている。子供ではあるようだけど、雛ではない。
ベッドの上で寝ているコロを見つけると、クチバシで突っつき始めた。
「プッ!?」
コロが不機嫌そうに目を覚ます。僕はガラスの板で鳥を透かして見てみると、コロと同じように左上に画像が現れ、「クーパーホーク」と書かれていた。
鷹の一種のようだ。この世界の動物は前世で知っていた動物と似た物が多い。ただ、コロの時と違うのは画像の下に【飛F】と書かれていることだ。
飛べるってことかな? まあ、鳥だから当たり前だけど。
「よしっ! じゃあ君は今日から“ホーク”だ。コロは先輩になるから仲良くするんだよ。あっ、そうだ飼うとなると母さんや父さんに言わないと……」
取り敢えず、ホークの事は明日話すとして何か食べさせないと。僕はベッドから下りて台所に向かう。ホークとコロは仲良くじゃれ合っているようだ。
台所から水と、夕食に出た干し肉の余った物があったので少量ナイフで切って持っていく。生まれたばかりで干し肉なんか食べるかな?
そう思いながら部屋に戻ると、すぐに異変に気づいた。
ベッドの上には、でっぷりとしたお腹で満足そうな表情をしているコロがいる。辺りには鳥の羽が散らばっていた。
さっきまで元気に羽をバタつかせていたホークがいない。
「え?」
「プッ?」
「……食べた?」
「プウゥン?」
クリクリの目で「何が?」みたいな声を出してくる。
「いやいやいや、食べてるよね! 確実に」
コロは僕から目を逸らし、コロコロ転がりながら、また眠りについた。あまりの出来事に、持っていた水と干し肉を床に落としてしまう。
しばらく絶句していたが、僕はガラスの板を出した。
一度ガラスの板で透かして見ると、動物の“記録”が残る。さっきまで画面の左側にホークの画像があったけど――
「無い……」
どこにもホークの画像は無かった。やっぱりコロが食べちゃったんだ。
何でこんな事になったんだろうと思い、呆然とガラスを見つめていた時、今まで無かった表示に気がつく。
「あれ?」
ガラスの左上、板の四分の一を占めるコロの画像のすぐ下に、【飛F】と書かれた文字があった。
これは、ホークにあった表記だ。頭の中がグルグル回る、僕は神様に“育成ゲーム”がしたい。って、お願いしていた。
動物の成長を楽しむゲームのことだったけど、もしかして、こうやって成長させていくゲームってことなの!?
「違う、違う、違うよ神様! 僕が望んだのは、こんな残酷なゲームじゃなくて、みんなで仲良く成長していくゲームなんだ!!」
半泣きになって訴えてみたけど、当然返答はない。沈黙して静かになった部屋の中には、コロの寝息だけが聞こえていた。
 




