第8話
「たまらねぇ〜」
下駄箱で上履きに履き替えていたら、伊藤さんに後ろから抱きつかれ、おっぱいを揉まれながら教室へと向かう。
「おい、伊藤。目のやり場に困るから止めろ…」
横を歩く竹野内くんが、伊藤さんの頭を鷲掴みにして、引き離してくれた。
「痛いっ!! やめてぇ〜。わかったから!! もう…。海もモミモミしたいんでしょ? 駄目だからね!!」
「し、しねぇよっ! てか、お前ら両方共チビだな」
「一緒にしないで!! リリスより私の方が高いよ?」
廊下の壁際に伊藤さんと二人して立つ。審査員は竹野内くん。
「確かに…1cmぐらい伊藤の方が高いな…」
「ふふふっ。私はおっぱいを犠牲にして背を手に入れたの」
「犠牲…。伊藤のおっぱい、全滅じゃねーか」
「う、煩い!!」とポカポカと竹野内くんの胸を叩く伊藤さん。やはり可愛い容姿で皆から守ってもらえるタイプは何をしても可愛い。
「おっぱい、おっぱいって…朝から何て言葉を連呼しているのよ」
1−Aの上位ランカー藤宮 あかねさんだ。その知性溢れるオーラを纏う藤宮さんの口から「おっぱい」という言葉が発せられても…文学的? いや学術的に聞こえるのは気のせいではない。
そう言えば、藤宮さんから何かを聞きたいと言われていたけど、何だったのだろうか?
じゃれ合う竹野内くんと伊藤さんを見ながら、横にいる藤宮さんに尋ねた。
「あの二人って…付き合ってるの?」
藤宮さんが答えるよりも早く、二人が「「付き合ってない!!」」とハモって答えた。うん、滅茶苦茶息が合っている。
「斎藤さん。彼氏欲しいの?」
「無理に作りたくないけど、自然と出会えれば欲しいかな」
「はい、はーい!! 立候補しまーすっ!!」
「馬鹿か。お前は女だろ!!」
「何言ってんの!? あんな可愛いのに勿体無いじゃん!!」
二人の掛け合いを見て、思わず笑ってしまう。
こんな馬鹿げた日常をずっと欲しと思っていた。
しかし、教室に入った途端。視界にある全てがモノクロームになり、時が止まったように動かなくなった。