第7話
梨里子の通う高校は、自宅から電車に乗って、1時間以上も離れた私立高等学校だ。勿論、地元中学から通う生徒は梨里子のみ。選んだ理由も高校デビューに人生を賭けたから。
地元はローカルな鉄道会社線であり本線から外れているためどうしても乗り換えが発生する。ジョブチェンジしたらしたで、梨里子には別の悩みが生まれたのだ。
『痴漢』
同性にさえ避けられていた梨里子が、突如何の脈絡なく異性のおじさんに触られたのだ。梨里子は恐怖で声が出なかった。今でもお尻を撫でるゴツゴツした手の感触を忘れない。
「でも、乗らないと学校に行けない…」
泣きそうになる梨里子に「おはよ」と声がかかった。振り返ると男性の胸があり、顔を見るには見上げなければならなかった。強面の高身長の男の子は、確かにクラスで見た記憶がある。
「竹野内 海だ。お、同じクラスだぞ?」
「ご、ごめんなさい。顔と名前が一致しなくて…」
「伊藤に痴漢のこと話しただろ? それで伊藤に護衛を頼まれたんだけど…もしかして、聞いてない?」
「伊藤さんに? だから…電車の時間を聞いてきたのね…」
「まったく、あいつはそういう奴なんだよな…」
ふ、普通に…男子と話している!?
「で、折角だから、一緒に言ってもいいだろう?」
「ありがとう。竹野内くん強そうだから安心」
「ははっ。ろくに運動してないのに背は伸びるし、顔は親譲りで怖いからな」
「ごめん。気遣いが足りなかった…」
「気にするなって」
ほぼ満員電車の中。やっと手の届く吊革につかまり竹野内くんを見上げていると、首と肩がこり始める。首を左右に振っていると、「斎藤はでかいから大変だよな」と言ってきた。
おっぱいのことかっ!? と急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になる。
「あ、ヤベェ」って声を漏らした竹野内くんは、「つい…楽しくて、調子に乗っちゃった。ごめん」と素直に謝ってきたので…親切に通学してくれているのだし…ここは許そうと思う。
「悪気はないんでしょ。良いよ」
「でも、本当に肩こるんだよ、これ」
「そ、そうか…」とおっぱいを一瞥して視線をそらした。
学校の最寄りの駅に付く。
改札を出たところで、伊藤さんが「リリス!!!」と叫んでいた。
「リリス…」まさか中学で言われていたあだ名をまた高校でも言われるとは思わなかった。