第6話
「斎藤。ゴミ捨ててくるから、それも入れちゃえよ」
「う、うん。ありがとう…」
掃除中、塵取りでゴミを集めていたら、当たり前のように普通に話しかけてくる男子。
何だろう? 嬉しいけど、悔しい。
悪魔の力で嫌われていたけど、今はサキュバスの力で、好かれている。本当は、自分の力で人に好かれたかった。
ううん。贅沢よね。それにサキュバスの力も私の力だもん。
掃除道具を片付けていると、芦屋 真央さんが話しかけてきた。
「全く、男って、いやらしいよね」
「えっ?」
「えっ? じゃないわよ。井上のやつ、斎藤さんの胸ばかり見てたよ。その胸は普通サイズじゃないんだから、注意しないと駄目だよ」
「う、うん…」
何だろう? 人の視線に敏感だったはずなのに。気が付かなかった?
いいえ。ち、違う。み、み、見られていて嬉しかったんだ…。
恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔を両手で隠す。
「さ、斎藤さん? だ、大丈夫!? み、見られていただけだし…。そ、そこまで恥ずかしがらなくても…」
「だ、大丈夫。ありがとう、ちょっと…休んでから教室に帰るから、さきに帰ってて」
「ううん。一緒に待ってる」
「ありがとう」
その気遣いが嬉しかった。しかし、当然のように会話が無いまま沈黙が生まれる。
「斉藤さんって中学の時、彼氏とかいた?」
こっちが必死に話のネタを考えていると、予想もしないマニアックな質問が!? 友達も居ないのに彼氏なんて敷居が高すぎる!?
「い、いないよ〜。友達も居なかったもん」
「えっ!? 本当? 何で?」
「こんな容姿だし、性格も暗いし…」
「はっ? それ…嫌味? そんなに可愛いのに? あぁ…そういうこと言うから、嫌われたのかも」
「い、言ってないよ!! 話し相手なんて誰も居なかったし…」
最初は訝しげな表情だった芦屋さんも、私の話が本当だと信じてくれた。
「不思議ね。でも過去は過去だよ。高校は楽しくやろうよ」