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長い秘密  作者: 砂臥 環
9/13

翌日、病院──4人【嘘】

 少し眠ってから目を覚ますと、三枝から連絡が入っていた。

 菱本はそもそも身体が弱っており、後遺症の有無も含めて検査入院をすることになったらしい。これも母親からの連絡の様で、会うのは問題ないので良かったら来てほしい、とのこと。


 菱本と母親は現在ふたり暮らしだが、昔からどこか距離があった。おそらくどうしていいのかわからず、話を聞いてほしいということなのだろう。


「俺は行くが、どうする?」と言う三枝からのメッセージに、「行くよ、何時?」と返す。菱本や家族の負担にならないように、一般面会時間の一時間前である16:00に病院に行くことになった。


 直後、武志は渉に連絡を入れた。

 事情を伝えていないこともあり、電話を掛ける。武志が『菱本が薬物を大量摂取したが、命に別状はないこと』から順を追って説明するのを、渉は電話口でただ黙って聞いていた。あまりに黙っているので、通信が途切れているのでは、と武志が疑うほど。


「どうする?」

「どうするって……行くよ」

「迎えに行こうか」

「いや、いい。 ああ…… 帰りだけ送ってくれないか?」

「わかった」


 表情は当然見えないが、電話口の渉は妙に落ち着いていた。




 ──16:00。

 三枝と武志は菱本の家族に挨拶をし、入れ違いで病室へ入る。

 渉はまた、少し遅れるらしい。


「よう、迷惑掛けたな」


 なにも無かったかの様に、菱本が言う。いつもと同じ、抑揚のない口調にふたりは微妙な笑顔で返した。

 正直、なにを話したらいいのかわからないのは家族だけではない。ふたりも同じだ。


 そこへカーテンの隙間から、捲る様に渉が入ってきた。どうやら遅れる、というのは菱本の家族に気を遣うのが嫌だっただけの様だ。


「……コレ、返すわ」


 渉は懐から例の小瓶を菱本に投げて寄越す。しゃらり……あの時と同じように無機質な錠剤の音。蓋は開いていない。


「なんだソレ……」


 三枝が怪訝な顔で口を開いた。


()()()()()だよ、ただの」


 実際、それはただのビタミン剤だった。

 渉は馬鹿にしたように菱本へ言う。


「お前、()()()()()()()んだろ?」

「……」


 菱本がなにかを言うよりも先に、渉は続けた。


「お察しの通り、俺には飲む勇気なんかなくて、調べた。 馬鹿だなぁ菱本……ソレで自分が()()()()()()()()()世話ねぇな」

「「「……」」」




 三人は()()()()()()を黙って見ていたが、菱本が堪えきれずに吹き出した。


「ああ……とんだ間抜けだ」

「お前向いてねぇよ、医者なんて辞めちまえ」

「……そうだな、それも良いかも……悪い、皆……迷惑掛けたな。 特に、サエには」

「──いいさ……別に」


 だが2度目は勘弁してくれ、正直重かった……と三枝がぼやくと皆、笑う。


 全員が渉の嘘をわかっていながら、それに乗っかる形で。


 それは欺瞞かもしれない。

 ただ、優しい空間だった。



 ──確かな居場所。


 もうとうに、日常とは言えないけれど。



 そこからどうでもいい話を少しして、「また」と別れた。




「……やめろよ、渉」

「なにが」

「菱本に輪を掛けてでかいお前なんか、俺処置できねぇからな?」

「ははっ……言ったろ? 俺はああいうの飲めないんだって」


 そんなやりとりの後、渉は武志の車に乗る。先に発進した三枝が右手を上げて挨拶をしてくるのに、武志と渉も応じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ううん、渉イイなあ。 正直不器用で、決して大人とは言えないキャラですけど、それだけにほっとけないですw
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