プロローグ・武志
★プロローグとエピローグだけ武志視点の一人称。
あとは三人称となります。
スマホの音と薄明るい光に気付き目を覚ます。
──午前2時。
こんな夜中にかかってくる電話の内容が良いことであろう筈もない。脳はまだ正しく処理を行おうとしていなかったが、身体は先にそれを判断したようで、覚醒よりも早く通話の表示を押していた。
「もしもし」と言うや否や、電話の主は若干の早口で……だがそれを抑えるように僕の名と概要を告げる。
──武志か? アイツが死のうとした。 今病院にいる。
くぐもった声、簡素な言葉。
相手の混乱やそれでも冷静になろうとする心情が窺い知れた。
覚醒した筈の僕もコレが悪い夢なのか現実なのかよくわからないくらいだが、やはり身体は病院へと向かう準備を始めていた。
「タケちゃん、どうしたの」
「……起こしてゴメン」
隣で寝ていた筈の美鈴が起きたのすら気付かず、心配そうに尋ねた彼女に返せたのは、間の抜けた台詞だけ。
それ以上質問させる隙も与えない早さで用意を終え、「後で連絡する」とだけ言って車に乗り込んだ。
信号──赤。
待つ間、珍しく舌打ちが出る。
何が出来るわけでもなく、無意味な焦燥からステアリングをカチカチと爪で鳴らしていた。
自殺 なんで いや兆候はあったのかも 美鈴にも言うべきだったかな どうしてアイツからの電話なんだ もう3時か 直接出勤しようか おばさんになんて声を掛けたら
闇の中で車窓から入ってくる外灯の光の様に、まとまらない思考が途切れ途切れにただ流れていく。どうやら思った以上に動揺していると気付く。
──青。
踏み込む右足。
「この間、会ったばかりじゃないか……」
無意識に、言葉が、漏れた。