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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第八十九話


 何度か、何かを言おうとフォルセウスが迷った様子だった。


「……これ以上、論ずるのは無益だな」


 しかし結局、嘆息と共に諦めの言葉を吐き出す。


「体を休める。明日の朝、現在の状況をよこせ」


「分かりました。纏めておきます」


 ごろりと横になって、フォルセウスが背を向けてしまった。


 洞窟の中で分かりにくいが、すっかり夜も更けた時刻になる。


 立ち上がるジェラールに、ララも従う。


 いや、ついとララがジェラールの前に出るように歩調を速めた。


「お食事、ご用意させますわ」


 その声は、どこか冷ややかだ。


「……あの、怒ってらっしゃる?」


「どうしてそうお思いですの?」


 ララが振り返ってくる。


 いつもの可憐な笑顔だった。


 だが目が笑っていない。


「いえ、その……声の感じとか」


「怒っておりませんわ」


「ええ……その感じ、絶対怒ってるじゃないですか……」


「……だって、」


 洞窟の通路の途中。


 ララが立ち止まり、表情を殺す。


「ジェラール様は、勝手ですわ」


「か、勝手、ですか……?」


「ええ、ええ。おひとりで完結なさって。わたくしなど、省みる価値などございませんのでしょうね」


「そ、そんなことは……」


「ではフォルセウス様を先に戦わせる手段にいたしますか?」


 ララが身を摺り寄せてくる。


 胸板に頬をぴとっとつける、甘えるような仕草。


 それを、ジェラールは苦渋の表情で、優しく引き離す。


「それは、できません……」


 苦しげな顔。


 悩まし気な声。


 それでもジェラールはそう言い切る。


 ララが身を離し、たっと走って行ってしまう。


「馬鹿なひと」


 一度だけ、振り返り一言を叩きつけてくる。


 震える声。


 ジェラールは、少しだけ立ち止まってうなだれる。


 それから、とぼとぼと食料が給仕される部屋で夕食にした。


 洞窟は細かに分岐しており、さらに手が加えられていて蟻の巣のようになっていた。


 部屋ごとに機能を分けており、武器庫や執務室めいた場所もある。


 フォルセウスや怪我人達がが寝かされている広い場所は、さしずめ病棟か。


 食事が終われば、指揮官室とも言える場所へジェラールは移動する。


 現状で陣頭に立っているのはセドリックだった。


 大きな部屋があてがわれており、複数人で作戦会議を催せる広さを有している。


 ジェラールが訪れると、均した砂の上の地図に視線を注いでいた。


「セドリック殿、少しよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


 硬質な声だった。


 それでもひるまずに、肩を並べて地図に目を落とす。


 この一日中、追跡隊と斥候がひっきりなしにこの部屋を行き来しているだけの情報量だ。


 特に太く、シエクスの町から北上している表示があった。


 ユーグの足取りだった。


 ふたつの村を経由して、どうやら北へ向かっているらしいのが分かる。


 聖ミカエルの山へ、向かっているが分かった。


 経由した村は補給のためだろう。


 追跡隊からの報告では、村の人間をユーグは殺し、食らい続けているらしい。


 跡に残っているのはおぞましい地獄の風景だという。


「セドリック殿、これを」


 ジェラールがアスモデウスの護符を取り出して、差し出した。


「お返ししておきます」


「……本当に、死ぬおつもりなのですね」


 ジェラールの決意と覚悟を、既にララから聞いているのか。


 セドリックは、真正面から見つめてくる。


「あの赤天派に、全て任せればいいのではないですか」


「それはできません」


「あの男は、シエクスの町を焼いた」


 強い感情が、セドリックから滲んでいた。


「私はあの町をずっと手掛けてきました」


「……良い町でした。とても」


「メルルナ様に、任された町だった……」


 悲痛な色が、セドリックの顔に滲む。


 耐えがたい何かが、溢れそうになっているのが分かる。


「メルルナ様が行方不明となり、あの町が私の心のよりどころだった。誰かに殺されたと思い込んでいた私にとって、任された町しかもうなかった」


「……」


「ララの報で、メルルナ様の生存と脱出が知らされた時の私の気持ちは……分かりますまい!」


「セドリック殿、まさかあなたも……」


「ええ、そうです。フォルセウス、導師ユーグだけがメルルナ様を慕っていたと思われるのは心外ですな。私の……私の想いの方が長く濃い」


 言葉を吐き出して、大きな呼気がセドリックから漏れた。


 ほんの少しだけ、心火の温度が下がったようだ。


「……メルルナ様の流派に入門するか、他の男系のアスモデウスの使徒の流派に入門するか、かつて私は迷いました。メルルナ様の流派は女系。奥義も伝えられないのは、分かっていました」


 それでも。


 そう続けるセドリックの言葉は、静かで深い。


「……それでもあの人の力になりたかった。今、復讐するための力がない自分が恨めしい」


 握る拳は震えていた。


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