第八十四話
「導師ユーグ覚悟!」
黄天派剣術とアスモデウス式拳術渾身の挟み撃ちである。
「があああああ!!」
だがそれもまた、ユーグの全身から噴出するオウルに阻まれて届かない。
「ぐあ!」
ふたりとも弾き飛ばされるように、燃え盛る家屋に叩きつけられる結果に終わった。
「で、でたらめだ……しかし……」
瓦礫を押しのけて身を起すジェラールは、それでも攻め続ければ好機はあると踏んでいた。
明らかに情緒が不安定だ。
今の一撃で、ユーグが膝をついて天を仰いでいる。
すぐさまにでも嘔吐しそうなのだろう。
その凄絶なオウルの量に不相応な弱り方だ。
制御しきれていないのだろう。
攻め続ければ、ユーグの疲弊の方が早いはずだ。
だが再び剣を握るジェラールの前に、ふたりの男が立ち塞がる。
「導師ユーグの邪魔はさせんぞ!」
「導師ユーグの邪魔はさせんぞ!」
ガズーとダズー。
いや、それどころではない人数が周囲に集まっている。
「くっ! ベルゼブブの使徒……!」
「ジェラール様! 早くしないと!」
先んじて、ララが飛び出した。
ジェラールもそれに倣い、連携でガズーを攻めた。
黄天派武術とアスモデウス式武術。
だがこの巧妙な連携を、ガズーとダズーは兄弟の絆が織りなす連携で対抗してくるではないか。
しかもガズーもダズーも攻め気がない。
専守防衛に徹した鉄壁の拳術の連携である。
ばちん
派手な拳打の音を立てて、四者の距離が空いた。
ジェラールとララは無傷。
ガズーとダズーは既にして血まみれと化していた。
ベルゼブブの使徒兄弟は一切の攻撃を放棄した、堅牢の守勢。
血まみれのまま、揺るぎない構えと気概でユーグの壁になる意気に燃えているのがありありと分かった。
「一切手を出さずに、守り抜くおつもりですか……!」
「まぁ男らしくない! それでもひとかどのベルゼブブの使徒なのかしら!」
おそらくジェラールとララならば、時間をかければ突破できる。
しかしその時間がない。
攻めあぐねている間にも、集まってきたベルゼブブの使徒がユーグを支えたり、オウルを分け与えている。
徐々に、ユーグの呻き声の間隔が長くなっているようだ。
少しずつ、少しずつ力を御せるようになっていると直感できる。
深く息を吸い、ジェラールが決断をする。
「……ララ殿! 逃げますよ!」
「ジェラール様、そんな!?」
「ララ殿! 従っていただきます!」
ジェラールがアスモデウスの護符を突き付ける。
アスモデウスの導師の権威を象徴した護符。
これを示されれば、アスモデウスの使徒は導師の命令に従うが如くせねばならぬ掟だ。
ララが唇を噛んで、泣き出しそうな顔になる。
「ジェラール様……」
「退きます」
「…………………………はい」
か細い、か細い声で返事をする。
そんな状況でもなお、それでもガズーとダズーは攻めてこない。
見事な自制心だと、ジェラールも苦い思いで賞賛する。
一瞥だけ、既に自分の脚で立ち上がっているユーグへ視線が絡む。
おぞましい眼差しに射られて身がすくむ。
即座に、身を引いた。




