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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第八十三話


 ころりと、まるで冗談のようにメルルナの美貌が宙を舞う。


 フォルセウスは死地にありながら呆然とそれを眺めてしまっていた。


 ジェラールを確殺したはずの剣など、もう止まっている。


 メルルナの首が、フォルセウスの腕に納まるように落ちてきた。


「メ……メルルナ……?」


 剣すら落としてそれを、困惑しながら抱きかかえる。


 ジェラールは痛恨の失敗で胸が焼け焦げそうになりながら、目端でとらえていたユーグを探した。


「……俺は、ここだ」


 声。


 隣からだった。


 背筋が凍えて、身動きが取れなくなる。


 倒れそうなメルルナの体を、愛し気に支える男。


 ベルゼブブの導師ユーグ。


 その胸へと、ゆっくりと指を這わせてユーグが感極まったようにつぶやく。


「やっと、手に入れた……」


 溜息のようなつぶやきと共に、一筋の涙が頬を流れていた。


「メルルナ様! メルルナ様!」


 フォルセウスが呆然に溺れユーグが陶酔に陥っていた場面で。


 ララの悲鳴が炎を切り裂く。


 懸命にユーグへと飛び掛かろうとする疾駆を、ジェラールが抱き留める。


「ララ殿! いけない、逃げるのです!」


「メルルナ様が! メルルナ様が!」


 錯乱に近い状況で暴れそうになるララを、ジェラールが必死で抑えた。


 その声に我に返ったフォルセウスが、ユーグに剣を向けていた。


「何故だ……ユーグ……何故……」


 フォルセウスの双眸からとめどない涙があふれている。


 ユーグが涙をぬぐいながらそれと対峙した。


「メルルナを愛している」


「では何故……」


「だが俺は機械仕掛けの凶剣を越えたい」


 ぬぐっても、ぬぐってもユーグの瞳に涙が浮かぶ。


 それを、堪えながら気勢を発する。


「そのために、こうせねばならぬのだ!」


 硝子細工を扱うような、丁重な指先が一転。


 鋭くメルルナの屍へと突き立てば、その左胸から心臓をえぐり出した。


 そしてフォルセウスに屍を突きつけて、ひらりと後退。


 フォルセウスは、屍とは言えメルルナを無下にできずに剣の間合いの外へと逃がしてしまった。


「いけない! ジェラール様! 導師ユーグを止めて!」


 その状況にララがさらに暴れてジェラールから抜け出そうとする。


「あれは! ベルゼブブの使徒の奥義のひとつなのです!」


 酷薄な笑いを一瞥ララへと向けて、


 ごくり


 ユーグがメルルナの心臓を泣きながら飲み干した。


「ああ! 早く!」


 戸惑いを覚えながら、ジェラールはしかしララを逃がすことを第一と考えていた。


 それを脇目に、メルルナの首と屍を優しくに寝かせたフォルセウスがユーグへと走っていた。


 ユーグは、両手で口をふさぎながら震えている。


 赤天派剣術が、堂々とベルゼブブの導師へと撃ち込まれた。


「げふ……がっ、がああああああああああああ!!!!」


 それをユーグは、気勢のみで弾き飛ばしてしまった。


 全容から噴出する、光。


 オウル。


 いや、究めた者の放つその光を、人はアイン・ソフ・オウルと呼ぶ。


 フォルセウスの剣が、迸る光に押し返されてしまったのだ。


「……愛する者の心臓を食するというオウルの修養。それがベルゼブブの使徒の奥義」


「何ですって!?」


「それがベルゼブブの使徒の、ダァトをひとつ増やす手段です!」


 見れば、ユーグの頭上で光る輪が明滅を繰り返している。


 ダァト。


 巡るオウルの要穴である。


 即ち輪郭を越えて膨大なオウルを纏っている証左であるが、それが増えるという。


 ふと、ユーグの頭上に輝くダァトが消えた。


 そして、その背から光が爆ぜる。


 頭上にひとつだった光の輪が、肩甲骨周辺にふたつ。


 背から光を溢れさせるユーグの姿は、炎の町に翼広げる天使さながらであった。


「げふ……がふ……がぁ……ああああああああああ!!!」


 だが、その神々しいまでの姿はまるで嘔吐を耐えるように無様に悶えている。


 飲み干した心臓を吐き出したがっているように見えた。


 それを涙を流しながら必死で堪えているのだ。


「ユーグ!」


 フォルセウスが、再び斬りかかる。


 しかしユーグは背を向け、ふたつの光の輪から迸る光でフォルセウスを吹き飛ばしてしまったではないか。


 燃える家屋にフォルセウスが叩きつけられて、倒壊の中に消えてしまった。


「くっ……!」


 ジェラールが、フォルセウスが取り落とした剣を手に走る。


 ララもそれに追走した。


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