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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第八十一話


 メルルナ達に先んじて、ジェラールは山を駆け降りる。


 町は凄惨な有様であった。


 燃え盛る炎が家屋を燃やし、倒れ伏す屍を舐めている。


 あちこちで飛び交う悲鳴が燦々たる夜にこだまする。


 町へ飛び込んで、ジェラールが見たのは人々を切る修道士達の姿だ。


「赤天派!?」


 堂々たる剣筋は聖ミカエルの剣技に他ならない。


 咄嗟に、切りつけられそうな町人をかばって修道士の剣を受けた。


「何をなさいますか!」


「貴様はジェラール!」


 見れば、聖ミカエルの山でも会ったことのある顔だ。


 ジェラールの名が挙がり、町人を追い回していた修道士達が集まってくる。


 取り囲まれて、四方から剣尖を向けられた。


「赤天派の修道士が、何故この町を燃やすのですか!」


「知れたこと、この町が悪魔の隠れ家であるからよ! あまつさえ、偽りの天使を騙り祝祭を催すなど言語道断! 炎による浄化は必然の措置である! 貴様がこの町にいるのが、全ての証拠ではないか!」


 四方の剣が、ジェラールの急所へと突きかかる。


 熱風を逆巻いた快速の身ごなしが、四振りの剣の檻から抜け出し四人の頭部を掌で撫でた。


 それで囲んできた四人を昏倒させれば、ジェラールが町を見渡す。


 倒れた家屋に埋もれる老婆。


 切りつけられて動けなくなった男。


 逃げ道が分からずに彷徨う子供。


 地獄さながらの光景だ。


 今昏倒させた四人も、放っておけば火が移ってしまう。


 近場にあった荷車に乗せて蹴りをくれれば、纏めて火から遠ざかる。


 疾風を纏うようにジェラールは燃える町を駆け抜けた。


 彷徨う子供を片手で抱きかかえ、動けなくなった男を担ぎ上げる。


 そして蹴りで老婆を挟んだ家屋を吹き飛ばし、もう片方の腕で抱き上げた。


 三人を負担していながら、ジェラールの身ごなしは鈍らない。


 風の様に火の外へと運んではまた赤い景色へと突っ込んでゆく。


 そうしている間に、アスモデウスの使徒達も山から下りてきた。


 各々、救助活動と消火活動に当たり始める。


 指揮をするメルルナへ、ジェラールが飛んでゆく。


「メルルナ殿、赤天派です。聖ミカエルの山に所属する修道士達が町を!」


「まさかフォルセウス様が?」


「……おそらくは」


 火勢の熱の中にあり、ふたりが底冷えする心地である。


 その時である。


 轟と火が翻り、その向こうから抜き身の剣を手にした修道士が現れた。


 果たしてフォルセウスである。


 落ちくぼんだ目に、こけた頬。


 やつれはてた顔は、輝かしいほどの精悍さ失って妄執に憑かれて見えた。


「メルルナ……メルルナ……見つけたぞ」


「フォルセウス様」


「どれほど探したか……もう逃がさん……もう逃がさんぞ……そのために、」


 フォルセウスの双眸がジェラールに向けられた。


 輝かしいほどの精悍さを失い、妄執に憑かれてなお。


 剣先を突き付けられるような迫力がその視線にはあった。


 瞬間、フォルセウスが一息に踏み込んでくる。


 頭上には光の輪。


 全力の踏み込みと共に、首を打つ剣の軌跡。


「まぁフォルセウス様、わたくしの名を呼んでくださるのに、ジェラール様にご執着なんて嫉妬してしまいますわ」


 そこに割り込んでくるのは、ふわりとした羽毛のような声と、剣が打ち合うの重い音。


 メルルナの剣。


 ジェラールとフォルセウスの間に、絶妙な瞬間にするりと割り込んだメルルナもまた、頭上に光の輪を現していた。


 剣と剣が接触した途端、がくんとフォルセウスが態勢を傾けて飛び跳ねるように退いた。


 メルルナのアスモデウス式剣術である。


 剣越しの、関節技。


 もしも今フォルセウスが引かねば、おそらく手首が極まって折れていたのだろう。


 距離を開けて睨みつけてくるフォルセウスが、その手首をひと撫でして構えなおした。


「まずはその背信者だ。切り刻んでこの浄化の炎で灰にしてくれる。メルルナよ、お前はその次だ。お前は……手足の健を断ち、今度こそ……今度こそ……」


 切々とした感情の発露は、狂おしい思いが痛いほど伝わってくる。


 ジェラールの隣で、メルルナがつい胸をときめかせているのが分かるほどだ。


「……フォルセウス様、教会の教えと恋の狭間に心が揺れるのは分かります。しかしそのやり方は間違っております!」


「黙れ!」


 激昂と共にフォルセウスがジェラールへと斬りかかる。



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