表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
82/244

第八十話


 シエクスの町は夜に近づくにつれて浮ついていた。


 祈りと寿ぎと、そして大きくはないが祭りの気配である。


 アスモデウスの使徒の儀式の夜であった。


 即ち、アスモデウスの使徒における祝祭の日取り。


 無論、堂々とそれを公表しているわけはない。


 表向きは教会における天使の祝日とうそぶいてのことである。


 町の者達も半分以上はそう信じていた。


 ローマ帝国やフランク王国、ブリテン島に教会の教えが浸透してなお地方では異教の信仰が絶えずにいるものだった。


 時に教会の聖人達は、奇跡を示して回心させることに成功した。


 時に教会の聖人達は、地道な説法を続けた。


 時に教会の聖人達は、象徴たる神木を切り倒し、異教の神官達を焼き尽くした。


 それでも異教の者達ことごとくとを、古き信仰や神々と切り離すことはできない。


 教会もまた現地の信仰を攻撃し続けるわけにはいかない。


 そこで異教の信仰が天使の姿で取り入れられるという事態が起きる。


 こうしてこれまでと同じ祝祭を、教会の管轄という名目で続けるわけだ。


 だがこの異教が姿を変えた天使信仰は、教会では手に負えない状態に陥ることになる。


 というのも、これはつまり各地で好き勝手に新たな天使が次々と生まれてしまう状況になるわけだ。


 そんなものが管理や把握ができるはずがなかった。


 このため、地方において悪魔教は都合の良い天使をでっちあげては勝手な祝祭を隠れ蓑にして儀式を行えるわけである。


 新月の夜。


 山の中腹だった。


 妖しげなかがり火に照らされた洞窟の口からは、淫靡な芳香が漂う。


 中の祠には、十数名のアスモデウスの使徒達がいた。


 そして、外にまで神を貶めて悪魔を讃える歌が聞こえる。


 美しく、艶やかな歌声。


 メルルナのものだ。


 天上の神に価値はなく、天の王国に意味はない。


 教会の教えは唾棄すべきである。


 聖徳のことごとくは淘汰され、悪徳はびこるべし。


 アスモデウスよ、偉大なる主よ。


 その英知は神をも凌ぎ、創りたもう王国は千年の栄華を約束する


 我らが忠義を受け取り給え。


 我らが忠義を受け取り給え。


 ジェラールは、その美声を洞窟の外で聞いていた。


 腕を組んで、岩壁に背を預ける格好。


 流石にアスモデウスの使徒の儀式に参加する気にはなれずに外にいた。


 シエクスの町の方には、未だに灯りが見えた。


 偽りの天使の祝祭を、楽しんでいるのだろう。


 流石にここまでその喧騒は届かないが、ジェラールは人が心楽しく過ごしていると思えばそれで良かった。


 歌が止んだ。


 中では、アスモデウスに向けた礼拝が続いているだろう。


 次はララの副導師叙任になる手はずだった。


 それが一区切りだ。


 祝宴が催され、そこでようやくジェラールも中に入れる。


 可憐な声が、祠の中から聞こえてきた。


 ララの声。


 アスモデウスへ奉げる祝詞が、常の軽薄さを殺して読み上げられる。


 小さいながら風格が響き始めていると、ジェラールに嬉しいような気持ちが浮かぶ。


 メルルナ救出に自分を使う。


 ベルゼブブの使徒を掃討するために無法者達を傘下に加える。


 人を使う経験を積んでいっているララだ、良い導師になる気質はあるはずだ。


 後はその方向性が、残虐性を帯びぬようにと願った。


 それもメルルナやセドリックを見て育っているからには、大丈夫だと思いたい。


 特に、シエクスの町を上手く運営していったセドリックの指導ならば。


 そう考えて見下ろす町に、異変。


 光が、強すぎる光がのたうっている。


 火だ。


 岩壁から背を離し、ジェラールが愕然となる。


「燃えている!?」


 火事か。


 いや、町の全域が燃え始めている。


「まさか……!?」


 燃やされているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ