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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第六話


 ジェラールが石を組み、焚火の上で固定された鍋の中身は豆を混ぜた麦粥だ。


「……そうですか、聖ミカエルの山に伯母君が」


 麦粥が出来上がるまでの、世間話であった。


 ララの旅の目的の話である。


「はい、毎年…この季節に会いに参りますの。伯父の命日も近いものですから……」


「聖ミカエルの山に眠っていらっしゃるのですか?」


「はい、ですので何度も足を運んでおりまして。いつも途中まで商隊に同行させていただくのですが…」


「慣れを感じて、路銀を惜しんだ一人旅をしてしまった?」


 ララが、恥ずかし気に小さく頷いた。


 それからの顛末は、ジェラールの知るところだ。


 苦笑をしながら、鍋の中身を匙で一度だけかき回す。


 くつくつと炊けて、いい塩梅だ。


 椀によそい、蜂蜜を薄くかけてララへと差し出す。


「無事に済んでよかった。どうか、今回のことを教訓となさってくださいね」


「はい……もう決して安全を軽んじませんわ」


 ふたり並んで神に祈りを捧げ、麦粥をすすった。


 軽くお互いの話をするが、ララも披露が募っていたのだろう。


 早々に眠りについた。


 次の日の昼過ぎには、ディーヴという町にたどり着く。


 ノルマディー海岸に即し、セーヌ川河口に位置した港町だ。


 ここから海岸沿いに、四つの街を経由してアヴランシュという町を目指す。


 大きな街道で結ばれた道のりであった。


 アヴランシュにまでたどり着けば、聖ミカエルの山は目視できる距離である。


「潮風が気持ち良いですね、ジェラール様」


 町の中に入り、ララが目に見えて安心していた。


 ベルゼブブの使徒も、ここまでくれば軽々に手出しできない安心だろう。


 心なし、大通りを進むララの足も速くなる。


 大通りからでも海が見え、吹いてくる潮風が初夏の暑さを和らげてくれた。


「まだ日は高いですが、旅籠に入ってしまいましょう。そこで包帯の取り換えです」


 丁重にララを支えながら、大通りに面した旅籠の一軒を訪ねた。


 扉を開ければ、長机と椅子が並んだ食堂だった。


 台所で仕事をしていた主人が、愛想よく笑いかけてくる。


「いらっしゃい。ふたりかね?」


「はい。一泊お願いします」


「今日はまだ誰もいないからね、好きな場所を取るといい」


「ご主人、実はこの子が怪我をしております。清潔な布と水をいただけますか?」


「ああ、そりゃ大変だ。持っていくから上で休んでいなさい」


 ふたり分の宿賃に、早速の注文を慮った分を付けてを支払い、ララの手を引いて二階へ上がる。


 二階全部がひとつの大部屋で、宿泊客は各々場所を確保して休む仕組みである。


 仕切りのための布も垂れているが申し訳程度だ。


 ジェラールとララは窓際へと荷を置いて一息をついた。


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