第七十七話
深夜のシエクスの町。
町長の館に、こそこそと二台の荷車が搬入される。
覆いがされており、中身は見えない。
しかし随分とぎっしりとした積載のようだ。
少しばかり揺れうごめき、呻き声のようなものが聞こえたのは気のせいだろうか。
「おかえりなさいララちゃん、ジェラールくん」
館の中までジェラールとララと、荷車を引く六人の無法者が入れば迎える声。
導師メルルナである。
「これが今回の戦功かしら?」
メルルナが優雅な手つきで荷車の覆いをはいだ。
荷車には、それぞれ五人ずつベルゼブブの使徒達が縛られて並べられている。
全員、薬を盛ってオウルも封じて身動きが取れずに目だけがぎょろりとこちらを向いた。
もっともガズーとダズーの兄弟だけは身じろぎもすれば、呻き声も微かに絞り出すのだが。
常人の致死量なのですが、と冗談めいてララが苦笑したのをジェラールは思いだす。
流石の使い手という事だった。
「ダズーちゃんにきちんと返報できただけじゃなく、ガズーちゃんまで! 想像以上の戦果よ、ララちゃん」
そっとララを抱擁するメルルナの仕草には慈母めいた優しさや誇らしさが滲んでいる。
つい、ジェラールもそれに見惚れた。
見惚れていると、艶然とメルルナが見返してくる。
「ジェラールくんも、ララちゃんを良く支えてくださいました」
「いえ、窮地に支えていただいたのは私の方でした。アスモデウス式の武術が、黄天派の武術をよく補ってくれたのです」
「メルルナ様、とても興味深い武術の噛み合わせがございましたの。是非ご報告したいですわ」
「まぁ、武勇伝ですわね……ですが、ふたりとも今日はもうお休みなさい。明日、起きた後に報告なさってくださいね」
労うようにふたりの肩を叩いて、そしてメルルナは未だ動けぬベルゼブブの使徒達をどこに運ぶか無法者達に指示を出す。
ジェラールとララは、顔を見合わせて今日は休もうかと頷き合った。
無論この後、部屋の寝床に侵入しようとするララとの攻防で休む時間が削れていった。
翌朝、ララと朝食を共にしてメルルナの執務室へと赴いた。
「おはよう、ふたりとも。よく眠れたかしら」
セドリックと話をしていたメルルナが、ふたりを席に着くよう促す。
ララとジェラールが隣り合い、その対面にメルルナとセドリックが座る格好。
「改めて、ふたりとも良くやってくださいました。上々の戦果ですわ」
「ダズーはもちろん、兄のガズーも捕らえられたのは大きい。導師ユーグは新進気鋭で、信頼できて腕も立つ部下はそこまで多くない。導師ユーグにとって、痛手になるだろう」
「あの十人は、今夜アスモデウス様に奉げる儀式の主菜といたしますわ」
メルルナが舌なめずりをする。
アスモデウス式の儀式に性交はつきものだ。
メルルナを導師とした流派は女系で、捕らわれのベルゼブブの使徒は全員男。
ベルゼブブの使徒十人、とことんまで精を搾り尽くされることだろう。
もっとも、男系でも今回のような流れになれば掘られ尽くすだろうが。
それに比べればまだマシな末路と言えるかもしれない。
悪魔教の者達は、しばしば七派どうしてもこうして他派を貶めて自派の力を誇示する。
メルルナの流派ならば、殺すまではせぬだろうとジェラールも黙っているつもりだ。
「その場で、正式にララちゃんを副導師に叙任いたしましょう」
メルルナが、導師の威厳と伯母の優しさを併せて微笑んだ。
それにはララも感極まった様子である。




