第七十六話
音は、地下から聞こえているようだった。
訝し気に、ジェラールとララが近づく。
そこで、あっとララが声を上げた。
「ジェラール様、もしかすると隠された通路があるのかもしれませんわ」
「この下にですか?」
「もしかすると、ですが」
ララがベルゼブブの石像を動かそうとするが、女の細腕には重い。
ジェラールも手伝うが、消耗していた。
ふたりして、肩で押せばずしんと石像が倒れて砕けた。
ガズーの罵倒が聞こえる中、再びがこんと音がする。
地面との見分けがつかぬほど巧妙な戸が開く。
中から顔を出したのは、パメラの父親だった。
「パメラさんのお父さん!?」
見下ろしてくるジェラールとララにびくりとなるが、ジェラールの顔に安堵が浮かんだ。
「良かった、ご無事だったのですね」
「ど、どうしてここに?」
「村にさらわれた者達が帰ってきて、あなたのおかげだったと思いました」
感極まった様子で、パメラの父がジェラールの手を取る。
「娘も……帰ってきたのです」
パメラの姉のことだろう。
溢れる思いに泣き出しそうなパメラの父に、ジェラールは十字を切る。
「よかった、ご無事にお帰りになれたのですね。これも主の導きです」
優しい言葉だが、それにパメラの父が一気に強張る。
そして跪いてしまったではないか。
「その……告解をします。私は……ア、アスモデウスの使徒なのです」
突然の言葉に、ジェラールがぎょっとなる。
ララは、この通路を使う者がアスモデウスの使徒であるのは想像できていたようだ。
「娘達を連れてきてくれた男達が、本当にさらわれた者達を助けた方々はまだ祠で戦っていると言いました。私はこっそりと様子を見に来ましたが、入り口がふさがっていたので……」
この通路で助けに来たという。
そこで、ジェラールが気づく。
パメラの父にとって、自分は教会者。
そのような者をアスモデウスの使徒の隠し通路で助けに来たのだ。
当然、裁かれてしまうという予想は簡単につくはずだ。
その上でなお、助けに来てくれた。
娘をふたりも取り戻してくれた男のために。
その義気にジェラールは胸が熱くなる。
膝をついてパメラの父に微笑みかけた。
「どうか、ご安心ください。私はまだ教会者ですが……その、アスモデウスの使徒のお手伝いをしていると申しますか……」
「え?」
困惑するパメラの父に、ララも視線の高さをあわせる。
「わたくし、ララと申します。この度、復帰なされた導師メルルナの任を受けてこの一帯をベルゼブブの使徒達から解放するために参りましたアスモデウスの使徒ですわ。そして、ジェラール様はその味方をしてくださっているのですよ」
「で、では……」
どっと、安心したようにパメラの父がしりもちをつく。
助けたジェラールに、あるいは殺される可能性すら考えていたかもしれない。
その不安から解放されて、パメラの父が笑い出してしまった。
ジェラールとララもつられて笑う。
「パメラちゃんのお父様、今回のことはわたくし、導師メルルナに功として報告差し上げますわ。後日の報告をお待ちになってくださいまし」
ララの物言いや、パメラの父も平伏してその言葉を受け取る。
それをジェラールが助け起こす。
「では、ベルゼブブの使徒の方々を捕虜として連行いたしましょうか」




