第七十二話
「くっ!」
ジェラールが胸の痛みを抑えて立ち上がり、ガズーの背後から襲い掛かる。
ぶおん
と、ガズーがそれを察していたように円弧を描く腕の振りで迎撃。
ジェラールは拳を届けること叶わずトンボを切った。
「やぁ!」
それを隙として、ララがガズーの懐へともぐりこむ。
そして左胸に毒掌を、打つ。
「それが、どうした!」
だが既に毒は切れ、補充するための媚香も薄れている。
ガズーに効果はなく、跳ね上がるような蹴りでララが吹き飛んだ。
「ああ!」
「ララ殿!」
ジェラールが、吹き飛ぶその身を受け取りに走る。
間一髪、壁に激突するには至らぬがもつれてふたりで倒れ伏してしまった。
「呆気ない。導師ユーグに改めての御指導いただいた甲斐はなかったようだな」
ララが副導師になる前に、メルルナからある程度技を授けられたように、ガズーもこの短期間でユーグに教わるものがあったようだ。
大剣を拾い上げて、ベルゼブブ式剣術の構えを取る。
弟であるダズーよりも数段、腕が上なのは構えから分かった。
「その身を焼いてベルゼブブ様に奉げてから、弟者と共に食ってやろう」
ジェラールが、ララを背に立ち上がる。
そして小さな声を零す。
「ララ殿、私が盾になります。逃げてください」
「ジェラール様、それは……」
その肩を、ララが掴んで立ち上がる。
「聞けぬ相談ですわ。わたくしが盾になります。ジェラール様がお逃げください」
「ララ殿」
「わたくしとジェラール様、どちらが逃げ伸びて有益か、一目瞭然ですわ」
「そんな損得勘定で物をいうべきですか! あなたは副導師になり、これからアスモデウスの使徒達を指導せねばならぬでしょう」
「安心しろ」
もたつくふたりへ、ガズーが冷然と言い放つ。
「ふたり仲良く、首を刎ねてやろう!」
轟と、烈風巻いて横薙ぎの剛剣が来る。
瞬間、ララとジェラールがお互いにお互いをかばい合うように、剣へと身を投げて迎撃に打って出た。
「くっ!」
「えい……!」
まったく、同一の呼吸だったと言っても良い。
どちらも身を挺しながらジェラールは拳を、ララは掌を剣に打つ。
即ちふたりの手が、大剣を白刃取るような奇妙な形。
不思議と、それが噛み合った。
立ち位置、気勢、拍子。
全てが混然一体となり、なんと大剣が疲弊したふたりにぴたりと止められてしまったではないか。




