第六十六話
「ではこれから、ベルゼブブの使徒達へと奇襲を仕掛けに参りますわ。ジェラール様が集めてくださった食料と一緒に、わたくしを縛ったふりをして連れていってくださいまし」
さらにララが、丸薬を全員に配った。
「こちらは、媚香の毒を中和する薬になりますわ。媚香が充満する中で行動していただくことになるでしょうから、服用してくださいませ。ベルゼブブの使徒の方々は、わたくしとジェラール様にお任せくださいまし。皆様はどうか浚われた娘達をお願いいたしますわ」
無法者達に、緊張が走る。
本当に、やるのか。
ベルゼブブの使徒に逆らった仲間が、殺されてしまったのを見た者もいた。
今更、その恐怖が六人の無法者達にじわりと広がる。
「大丈夫です」
ジェラールが静かに、深い声を落とした。
「きっと私達が何とかしますから」
「ジェラール様はダズー様に二度も勝利を収めておりますの。ベルゼブブの使徒の十人やそこら、敵ではございませんわ」
ララが胸を張って堂々と言った。
可憐さがなりを潜めたおかげか、威厳が出て言葉に説得力が生まれいている。
それが六人をいくらか安心させた。
「それにジェラール様こそ行方不明だったメルルナ様を救い出したアスモデウスの使徒の救世主で……」
「ララ殿、それは良いではないですか」
「はら、失礼。ともかく、」
こほんとララが咳払い。
「皆様はジェラール様を頼りになさってくださいませ」
六人はララとジェラールの強さに疑いはなかった。
加えて毒の仕込みもあるのだ、無法者達六人が、ひとりまたひとりと意気込んでいく。
そうして食料を積んだ荷車を引いて八人が祠へと赴く。
道中、媚香を中和する薬を飲み、ララを縛るふりもすませた。
がっちりと後ろ手で縛っているように見せかけて、握りこんだ縄を離せばぱらりとほどける仕組みだ。
やがて祠に近い位置で、ジェラールが身をひそめる。
十五人ほどの無法者達が、祠の洞窟の前で酒を飲んでいた。
ベルゼブブの使徒の傘下の者達だろう。
そこにララ傘下の無法者六人が食料を積んだ荷車を引いてやってくる。
酒盛りをしていた者達と、一言二言やりとりをして洞窟の中へと入っていった。
洞窟からは、低く腹に響く声が漏れ聞こえてくる。
ベルゼブブを礼賛する歌だ。
まるで地獄の底から聞こえてくるような空恐ろしさがあった。
ジェラールが、風上に移動する。
そこで媚香を焚き始めた。




