第六十四話
それから、見張りのふたりが洞窟の中に声をかけるとぞろぞろと男達が出てきた。
全員が、ベルゼブブの使徒だ。
遠目にひときわ屈強な男をジェラールは見る。
ダズー。
二度、交戦の経験がある顔だった。
九人のベルゼブブの使徒達が荷物を持って中へ入って行く。
中には酒樽もあり、ベルゼブブの使徒から歓声が上がっている。
荷物を運んできた無法者達にも、一部が振る舞われた。
そのまま入り口で飲めと指示されたのだろう、五人が腰を下ろす。
おこぼれであり、見張りにしているのかとジェラールは理解する。
ベルゼブブの使徒達は、全員洞窟へと入って行った。
やがて洞窟の中から楽しそうな気配が漏れてくる。
「まるで蝗でさぁ。献上されたものを、すぐに食いつぶしやがるんだ」
「へっ、結構な身分なこった」
ジェラールの背後で、率いている無法者達が悪態をつく。
「献上されたものは、すぐに消費されるということですね」
「まぁ、そうですね。明日の儀式用に、ある程度取っておくかもしれやせんが」
「ふぅん……」
媚香を使わずとも、毒を仕込めばとジェラールは考える。
それから少しだけ、洞窟の周辺の様子を調べて山を下りてララと合流しに戻った。
野営の場所では、ララが無法者三人と共に媚香をこしらえていた。
秤で重さを計測して、擂鉢で薬草をすりつぶし、沸騰した水を慎重に注ぐ。
そして、シエクスの町から持ってきた秘薬と一緒に混ぜる。
他にも多くの工程で、どんどん作っていく。
「戻りました」
「おかえりなさいませ、ジェラール様。昼食に致しましょうか」
わっと、媚香つくりに辟易していた男達から歓声が上がる。
それから媚香作りに使っていた火を囲んで、川魚と麦粥を用意した。
八人での食事の最中、話題は明るいものは少なかった。
「そもそも、抗争ってのはどういうことなんでしょうかい?」
ぽつりと無法者のひとりが零した。
「実は行方不明になっていたアスモデウスの導師が帰ってきまして」
ジェラールの言葉に、無法者達が声を上げた。
「それで、縄張りを取り返そうとするアスモデウスの使徒と、縄張りを切り取っていたベルゼブブの使徒の抗争ってわけですかい」
さらに聖ミカエルの山の赤天派も絡むが、それは黙って頷いた。
「アスモデウスの導師かぁ、どんな男なんで?」
「いえ、この教区の現在の導師は女性ですよ」
「ほんとですかい、じゃあどんな別嬪か」
「そうですね、ララ殿が美しく年を重ねたようなお姿ですよ」
「娘さんなんですかい?」
「わたくし、メルルナ様の姪ですわ」
ほうと六人の無法者達から声が上がる。
伯母と姪の関係だけあって、ララとメルルナの特徴には似たところがある。
ただしララが可憐さを磨いた小悪魔なのに対して、メルルナは成熟した艶美を武器にする妖婦だ。
「ははぁ教会の信徒を骨抜きにして従わせるなんて、流石ですなぁ」
無法者のひとりの言葉に、ジェラールが咳き込んだ。
「いえ、私は成り行きでこうなったと申しますか……」
「じゃあつがいじゃあねぇんですかい」
「ち、ちが、」
「やっぱりそう見えますかぁ?」
ジェラールの言葉を遮って、満面の笑みでララがすり寄ってくる。
なんとも難しい顔で引き離そうとする姿を、無法者達はぽかんと見ていた。




