第六十二話
その日のうちに、ナイカの村に可能な限り近づいて野営を敷いた。
ただしジェラールだけは、パメラを家へと送り届けるために村へと入った。
日が落ちてしまうぎりぎりだ。
ダズーには顔が割れているので、可能な限り人相をぼやかしたかった。
「ほら、パメラさん。おうちですよ」
「あ! ほんとだ! ほんとだ!」
ジェラールの背でパメラがはしゃぐ。
そこそこの規模だが、変哲もない村だ。
遠目から、野良仕事から帰ってくる者達が見える。
誰もが痩せて気力がなかった。
パメラの指示に従って、小さな家を訪れる。
「御免ください」
中から出てたのは、沈鬱な顔の女だった。
随分とやつれているは、食べれていないだけではなさそうだ。
パメラと、その姉で心的に参っているのだろう。
「おかあさん!」
ジェラールの背中から、ぴょこんとパメラが顔を出す。
仰天する女にパメラを譲ると、強く抱きしめて泣き崩れてしまった。
「どこに行ってたのあなたは! お父さんもお母さんも心配したのよ!」
「ごめんなさい……」
母につられて、パメラも泣き出してしまった。
「パメラを、パメラを連れ戻してくださって本当に有難うございます」
やがて落ち着いた母が、ジェラールに向き直る。
「いえ、これも神の導きです」
「パメラ、パメラじゃないか!」
戸口から、さらに男が入ってくる。
父親だろう。
パメラが痛がるほど抱きしめる背は震えていた。
「あなた、この方がパメラを」
「どなたかは存じませんが、本当に有難うございます。もうこの娘しか、我々にはおらんのです……」
「パメラさんのお姉さんは、連れていかれてしまったとか」
その言葉で、パメラの両親の顔が引きつった。
ジェラールが十字を切る。
「どうか心安らかになさいますよう。私はベルゼブブの使徒に、お引き取り願いに来たものです」
「きょ、教会の方がいらしたのですか?」
「えっと……はい、まぁ、私は教会の信徒です」
両親の瞳に、困惑が灯るのをジェラールは見る。
たったひとりなのか。
パメラには感謝するが、こんな優男では。
といった感情だろうとジェラールが苦笑する。
「村の外には仲間も待機しておりますので。もう二日ほどの辛抱です」
「二日ですか?」
「ええ、その日にベルゼブブの使徒達を一網打尽にするため、山へとお邪魔する算段です」
「場所は分かりますか?」
「明日、山の下見に赴くつもりです」
父親が、何か覚悟を作るような間を取る。
「では山の案内を私が」
そして奮起して申し出てくれた。
それにジェラールは緩く首を振った。
「お気持ちは有難く存じます。しかし危険だ。幸い、土地勘に優れた者が仲間におりますので」
「そ、そうですか……」
「どうか、このことはご内密にお願いします。ベルゼブブの使徒に勘づかれると厄介だ」
「もちろんです」
両親が真摯に頷いてくれたのを、ジェラールは微笑み十字を切る。
「では私はこれで。どうか我々の成功をお祈りください」
「もういっちゃうの?」
パメラが、寂しそうに見上げてくる。
「はい。もう迷ってはいけませんよ」
ジェラールがその頭を撫でてやる。
そして両親が引き留めようとするのを背に、ジェラールは風のように村から去っていってしまった。




