第六十一話
「メルルナ殿の話から倍近くですね」
「拠点はナイカの村の裏山」
「山ですか」
「そこにアスモデウス様の石像を祀った祠がありますの。そこに居座っているとのことですわ」
シエクスの町で見た、あの祠のような場所かと思い浮かべた。
「ははぁ、では不意打ちは難しいでしょうか」
「あら、そんなことございませんわ、ジェラール様」
艶然と、ララが舌なめずりをする。
「どうやら二日後に、十人で集まって祠で食事をするようです。もちろん、普通の食事ではなくベルゼブブ式の儀式のようなものですわ。限界まで、食料を詰め込む宴のようなものでございますわ」
「暴食の修行というわけですか。しかし、十人?」
「もうひとり、やってくるようですが、この六人は詳細を知らされていないようですわ」
ララがちらりと無法者達に視線を送る。
「そのための食料や、食料を買い付ける金、そして弄んだ後に食料にするための若い娘達をこの方々は集めていらっしゃったご様子」
パメラに聞こえぬよう耳元でささやかれる。
しかし、とララが続ける。
「給仕のように、娘達はまだ生かされている様子ですわ。おそらく儀式で一斉に……」
「猶予は二日というわけですか」
「まだ娘を募っているようです。なのでわたくし、宴の途中に捕まった若い娘を装ってこの方々に連れていっていただくとしますわ。そしてジェラール様は、祠の入り口から大量の媚香を焚いて、媚毒を充満させてくださいませんか」
「それで一網打尽にするというわけですね」
「……というわけですわ。皆さま、どうかご協力お願いしますわ」
急に話を振られた無法者達六人が、顔を見合わせて戸惑いを見せた。
首領格が、強情そうな顔で睨みつけてくる。
「断ると言えば?」
「断る、受け入れる関係なく毒で従わせさせていただきます」
ララが谷間から、小瓶を取り出す。
中には、小さな丸薬が入っている。
「強い効果の強心剤なのですが、定期的に心臓が破裂しそうになる苦しみが繰り返すものになります。三日以内に解毒剤を呑まねば死にます。これを今から皆様には召し上がっていただきますわ」
「……おい、お前らはベルゼブブの使徒達を追い出しに来たのか」
「そうです」
「三年以上前、この辺りはアスモデウスの使徒達が仕切っていた……お前らは、その……」
「はい、わたくし達はベルゼブブの使徒達からこの一帯を取り戻しに参りましたのよ」
首領格が、他の五人に目配せをする。
五人は、めいめい頷いて返した。
「分かった。俺達は、お前らに就く」
「あら」
「不思議か? 俺は隣村の鍛冶屋だった。二年前、食う物がなく盗みを繰り返した。そのはずみで人を殺した」
「それで森に逃げ隠れたのですか?」
「そうだ。他の五人も、同じような理由だ。みんな、食う物が無くなっちまったのが発端だ」
「……ベルゼブブの使徒への上納ですね」
「そうだ。それに比べれば、三年以上前は、平和だった。村々で、夜な夜な乱交があったとは聞いているがな。食うに困るよりもはるかにマシだ」
ララとジェラールが顔を見合わせる。
「仲間は、もっといた。だがベルゼブブの使徒達に反抗して、殺された……それから、無理やり従わされていたんだ。頼む、俺達にも手伝わせてくれ」
ララが嘆息して、小瓶を胸の谷間に仕舞い直す。
「ジェラール様」
「ええ」
ふたりが六人の足に触れる。
すぐに再び動くようになった。
「では皆様にはこれより、わたくし達の傘下として動いていただきましょう。よろしくお願いいたしますわ」




