第五十九話
「女の子をあやすのがお上手ですねぇ」
「うふふ、こういう時は、女の方が警戒心をほどくものですわ」
ララが人差し指を頬にあてがい、悪戯っぽく片眼をつぶって見せた。
「……パメラさんのお姉さん、まだ無事だと思いますか?」
「難しいですわね。奴隷のように身の回りの世話をさせられているだけかもしれません。それにベルゼブブの使徒の教義が暴食とは言え、性欲がないわけでもありませんし」
眉を顰めるジェラールに、ララがことさら真面目な顔になった。
「もしもパメラちゃんのお姉さんが生きて帰ることができて、心の傷がどうしようもない時は……アスモデウスの教義が救いになるかもしれませんわ」
常の艶めいた軽薄さはなく、アスモデウスの使徒としての責任感を胸に据えた慈悲を感じさせた。
とはいえ、パメラの姉の心境を考えれば気持ちが重くなる。
せめて五体無事でいてくれればと思うばかりだ。
ふと、ふたりとも足が止まった。
人の気配だ。
このまま止まっていると、囲まれるだろう。
「……六人でしょうか。どうしますか?」
「一目見てみましょう」
獲物がわざわざ近づいてきてくれたとばかりに、ララが満面に笑みを浮かべた。
森は獣と無法者達の住処だ。
荷物を抱えた旅人達は恰好の獲物で、若い娘も壊れるまで弄ばれる玩具でしかない。
幼子を抱えたジェラールと、か弱そうなララはまさに狙われるべくして狙われたのだろう。
とはいえ狙われているのを察される程度であり、しかも人数まで把握されるのだから、ふたりにとってやってくる者達は大したことのない。
果たして六人の無法者達がふたりを囲むように姿を現した。
「荷物と女を置いていけ。そうすれば餓鬼と命は助けてやろう」
首領格の体躯の良い男がジェラールに脅しをかけてくる。
ざっと、ジェラールとララが六人を見渡す。
ベルゼブブの使徒ではない、ただのならず者達だろう。
「ジェラール様、この方々からお話を伺って、それからわたくしのお使いをお願いしようと思いますわ」
「分かりました。では両腕でも封じますか?」
パメラをどこか木の下におろそうかと視線を巡らせる。
それをララがにっこりと首を振る。
「わたくしが致しますので、どうかお任せください」
小声で相談するふたりに、首領格格の男が剣を抜いて前に出る。
ぶんと一振り、ジェラールの首筋に切っ先を突き付けてきた。
「ごちゃごちゃ相談しても無意味だ。女と荷物を置いて、お前はとっとと消えろ」
「これからあなた方に少しだけお手伝いをお願いしたいのです」
「はぁ?」
「少し不自由にさせてしまいますが、終わればいくらかの銀をお支払いしますので、どうかお願いします」
ジェラールの突拍子のない言葉に、六人が困惑する。
「頭のおかしい奴だ。もういい」
首領格の男が、主導権を握られぬようにするためか、剣を振りかぶる。
ジェラールが十字を切った。
瞬間、ララが風の様に六人の間をすり抜けて駆けた。




