第五十八話
「あちらかと」
耳を澄ませたふたりが、森の奥へと踏み入った。
歩きにくい勾配や、湿気た地面が続く場所だ。
果たして、進んでいけば木の洞でしくしくと泣いている女の子を見つけた。
「こんにちは、お嬢さん。どうしましたか?」
ララが優しく話しかけると、女の子は怯えと戸惑いを見せた。
「まよったの……」
おどおどと女の子が答えた。
「どこから来たのでしょうか?」
「ナイカのむら」
ララがジェラールと顔を見合わせた。
「奇遇ですわ、わたくし達もそこへ行く途中ですの。お嬢さん、わたくし達が送り届けて差し上げますわ」
「ほんと?」
女の子の表情が明るくなる。
「わたくしはララ。こちらのお兄さんはジェラール様とおっしゃるのよ。お嬢さん、お名前は?」
「パメラ」
「ではパメラちゃん、お姉さんと一緒に行きましょうね」
ララが手を引いて、洞から引っ張るとパメラはふらついて尻もちをつきそうになる。
ララが支えてやるけれども、どうも弱っているようだ。
「まぁパメラちゃん、大丈夫ですの? 疲れてらっしゃる?」
「おなかすいた……」
「では、先程川を見かけましたのでそこまで戻って食事にしましょうか」
ジェラールがパメラを背負い、来た道を少しだけ戻る。
すぐにせせらぎのほとりにまで出れば、そこで麦粥を作ってララがパメラに食べさせてやった。
息を吹きかけて冷まし、匙をパメラの口にもっていってやる甲斐甲斐さである。
「パメラちゃん美味しい?」
「うん」
腹が膨れれば、パメラが目に見えて元気になった。
世話を焼いてくれるララに、安心もしているようだった。
「ねぇパメラちゃん、どうしてあんなところで迷っていらしたの?」
「おねえちゃん、さがしてたの」
「お姉さん?」
「パメラのおねえちゃん、おっきなおとこのひとにつれてかれて、ずっとかえってこないの。だから、おむかえにいこうとおもったけど、どこにもいなくて……」
ベルゼブブの使徒の徴収か、とジェラールが直感する。
「それは、ベルゼブブの使徒に連れていかれたのでしょうか?」
「べる……」
少しパメラが悩んで、首を横に振る。
「わかんない。おとうさんとおかあさん、あくまきょうのひとだって、いってた」
「……そうですか」
ベルゼブブの使徒に女が連れ去られたならば、運が悪ければ食われている可能性が高い。
ジェラールは渋い顔になるが、ララはにっこりと微笑んでパメラの頭を撫でてやる。
「わたくし達、パメラちゃんのお姉さんがいらっしゃる場所に参りますの。もしもお姉さんにお会いしたら、きっとパメラちゃんのおうちに連れて帰りますわ」
「ほんと?」
「ええ、ですからパメラちゃんは一度おうちに戻りましょうね」
「……パメラもさがしたい」
「うふふパメラちゃん、順番ですわ。さっきまでパメラちゃんがお姉さんを探す番でしたが、次はわたくし達の番ですの。パメラちゃんは、順番を守れる良い子ですわよねぇ?」
パメラがちょっとうつむいて、ゆっくりと頷いた。
「パメラ、じゅんばんまもれる」
「とっても良い子ですわパメラちゃん! わたくし達の、次はまたパメラちゃんの番ですから、その時はお願いいたしますわね」
「うん」
それからララがあやしているうちに、その膝でパメラは眠ってしまった。
ジェラールがまた背負い直して、再びナイカの村へと進み始める。




