第五十七話
シエクスの町には、古いが整備された街道とのつながりがあった。
しかしナイカの村へは、森を潜り進むしかなかった。
主要な街道から外れた村へ行く方法は、およそそういうものだった。
村というのは森の海にぽつん、ぽつんと浮かぶ小島のようなものなのである。
シエクスの町を出発した次の日。
午後を少し超えた時刻である。
日は燦々と天に輝いているのだが、うっそうと茂る枝葉で森は薄暗かった。
もっとも、その程度ではララとジェラールの脚が鈍ることはない。
悠々とした足取りで、ふたりは森の中を進んでいた。
「あと半日ほどでしょうか」
「そうですね。太陽ももう中天だ……日が落ちる前には、たどり着くでしょう」
「はぁ、ジェラール様との旅なのですから、もっと、もぉっと味わいたいですわ」
胸の谷間が見えるように開いた、前衛的な旅装束でララがすり寄ってくる。
いつか聖ミカエルの山へ一緒に向かった時の距離感と変わらぬ密着度だ。
いや、正体を隠していた時と比べて、さらに堂々としていた。
「一緒にお花を愛でたり、川のせせらぎを素足で歩いたりして手を引いて……」
うっとりと口ずさむララに、ジェラールは苦笑する。
「今回は、明確にお仕事ですから、それはまた今度に……」
「うふふ、今度ならジェラール様もご一緒してくださるのですね?」
「あ、いえ、それは……」
つい自然に口に出た言葉尻を捕らえられて、ジェラールもたじたじだ。
その様子を、ララが微笑まし気に見詰めてくる。
「冗談ですわ。副導師になるとなれば、忙しくもなりましょう。メルルナ様からも、直接指導いただく武学も多くございます。今、このひとときだけ……わたくしの潤いにさせてくださいませ」
ぴと、とララがジェラールの胸板に寄り添う。
頬を摺り寄せて、小さな子供のような甘え方だった。
それが演技かどうか、判別がつかなかった。
この若さの副導師だ。
不安もあるのだろう。
その肩を、ジェラールが力強く叩く。
「ララ殿なら、大丈夫です。私やユーグ殿、フォルセウス殿を出し抜いてメルルナ殿を助け出したのですから」
「嬉しい……」
涙ぐむ声音。
ララの右手がジェラールの服をきゅっと握り、左手がその股間に伸びる。
「それは止めてください」
股間に触れる前にジェラールがその左手を掴んだ。
ちろりと舌を出して、ララが悪戯っぽく笑って身を離した。
「いやん、ジェラール様も貞潔ですわね。この世で最も役に立たない概念ですのに」
「油断も隙もありませんね……」
溜息を吐いて、ジェラールが歩を進めようとして、止まった。
「……泣いている声が聞こえませんでしたか?」
「ええ、かすかにですが」
ララも頷いて、森の奥へと視線を向けた。




