第五十五話
ひとしきり再現を終えれば、メルルナも自身で拳をなぞり始める。
ふたりで逐一、武学と照らし合わせて技の変化を予想していく。
それが終われば、メルルナが頷いた。
「今のララとほぼ互角と言えましょう。追い詰められたのは、兄と一緒だったからでしょうね」
「私もそう思います」
「しかし今ダズーは単独で隊を仕切っているようです。不意打ちができれば、まず勝てるでしょう。四手か五手、有効な技を教えておきましょう」
「ララ殿はダズー殿とその兄に、襲われていたことがあります。やられっぱなしにならぬよう、今回の任務ということですか?」
「そうですわ。副導師になるのですから、舐められたままでは務まりませんもの」
「……殺した方が都合が良いですか?」
ジェラールが、何気ない調子で尋ねた。
メルルナはそれに媚笑を返す。
「アスモデウスの使徒の勝利は、情事の勝利。命のやり取りが本質ではございませんわ」
「では」
「ララには、ダズーを搾り尽くして連行すること、と申し付けましょう」
ジェラールが十字を切った。
「ああ、しかし人が足りないですわ」
そんなメルルナが、これ見よがしに頬に手を当てて憂い気な溜息を吐く。
「ダズーひとりなら、ララで大丈夫と思いますけれども、取り巻きもいるでしょうねぇ」
「そうでしょうね。ダズー殿も、隊ひとつ任されておかしくない実力はありましたから」
「ああ、ララがせっかくダズーに勝っても、取り巻きにやられちゃわないかしら」
「……」
「逆に取り巻きのせいで、ダズーに不意打ちもできずに返り討ちにされないかしら。心配だわぁ」
「……あの、メルルナ殿」
「せめてララがダズーに集中できるための、護衛がいればとぉってもわたくし安心できるのですけれども」
「……」
白々しすぎるメルルナに、ジェラールが溜息を吐き出した。
「分かりました、同行しましょう」
「まぁ、ジェラールくん、悪いですわそんなアスモデウスの使徒の仕事を……」
「ではララ殿おひとりで……」
「男の子が前言を翻すの?」
「分かりましたよ!」
「うふふ、いい子ですわね」
メルルナが悪戯っぽく笑って、机の上の鈴を鳴らす。
すぐにセドリックがやってきた。
「セドリック、ララを連れてきてちょうだい」
「かしこまりました」
一礼と共にセドリックが身を翻す。




