第五十話
それからジェラールはあてがわれた部屋に戻り、さっそく手紙をしたためる。
その途中、扉が叩かれる。
迎えれば、ララであった。
猫のように近づいて来ると、胸にぴとりと頬を摺り寄せ、人差し指が丸を描く。
「ジェラール様、改めてお礼を申し上げたくて」
「ララ殿、重ねて申し上げますが、今回のことは私自身が……」
ジェラールの唇を、ララが人差し指を突きつけて塞いだ。
そしてしゅるりと衣服をほどいて床に落とす。
「わたくしのお礼を、改めて受け取ってくださいませ」
蠱惑的な上目遣いに中てられそうになる。
しかし、ジェラールはその肩に手を置いて、優しく引き離した。
「もう、十分に感謝の気持ちは伝わっておりますから」
それより、とジェラールが微笑みかける。
「副導師に昇格するようで。おめでとうございます」
祝福の言葉に、ララが露骨に顔をうつむけた。
「ジェラール様、わたくしって魅力に乏しいでしょうか?」
そして真剣な声調でそう問い詰めた。
「え? いえ、ララ殿は十分可憐かと……」
「ではどうしてジェラール様はわたくしになびかないのかしら?」
心底不思議そうに小首をかしげる仕草は、学者が難問にぶつかった時の様子に似ていた。
「あのですね、私とて努めて自制しております。たびたび、負けそうになっておりますよ」
「本当ですの?」
「ええ」
「では、もう少しで篭絡できちゃったり……」
「勘弁してください、ユーグ殿やフォルセウス様に会うまで、ララ殿に搾り尽くされるわけにはいかぬのです……」
「まぁそんな。わたくしジェラール様の子供を孕みたいだけですのに」
「子供って!?」
「うふふ、アスモデウスの使徒の源流のひとつは、旅人から種をいただく性に奔放な民族にも通じておりますのよ。古い契約の民からすれば、穢れた民族という扱いでしたでしょうけども」
それに、とララの瞳が鋭く光る。
「ジェラール様を篭絡すればこれはもう、メルルナ様もわたくしに導師を確約してくださるでしょうから」
ジェラールは苦笑する。
そんなに功績を重ねずとも、既にメルルナの心は決まっているというのに。




