第四十五話
朝、ジェラールが目覚めると見慣れぬ寝台の上であった。
シエクスの町長の館、その一室である。
あの後、結局普通に完全密室にしてから眠りに落ちた。
アスモデウス式の歓迎を完全に遮断しての休息である。
眠るまでに、上の部屋でめっちゃギシギシと聞こえてきたが無視をした。
慎重に部屋から出ると、洗濯物を運んでいる下女が通りかかり、微笑みかけてきた。
夜に躊躇なく衣服を脱ぎ去ったのが嘘だったように、素朴で可愛らしい娘だ。
「おはようございます、ジェラール様」
「おはようございます」
「お食事の用意ができておりますわ。食堂へご案内いたします」
洗濯物を脇に置いて、下女が丁寧にジェラールを誘おうとした。
「これはご丁寧にどうも。あの、しかしお仕事の邪魔はできませんよ、場所を教えていただければひとりで行けますので」
「いえ、いいえ! そうは参りませんわ!」
熱っぽく下女がジェラールの手を取る。
その眼差しにありありと尊敬と畏敬の念に加え、ねっとりとした色情の念がこもっていた。
「メルルナ様をお救いくださったジェラール様にご無礼はできません。さぁ、どうぞこちらへ。この館にいる間、わたくしになんなりとお申しつけくださいませ。心を込めて、ご奉仕させていただきますから」
「は、はぁ、それはどうも……」
下女の丁寧な案内で食堂へと赴けば、メルルナとセドリックがふたり並んで朝食をとっていた。
「おはようございます、おふたりとも」
メルルナが愛想よく手を振り、セドリックも紳士的に応じてくれる。
「おはようございますわ、ジェラールくん」
「おはようジェラール殿。よく眠れたかな」
「…………………………ええ、はぁ、まぁ……」
一切の感情を凍結させてジェラールが頷き、席に着く。
すぐに、下女が皿を運んできてくれた。
パンとチーズ、それに鶏肉の煮込み汁が給仕されるとその湯気がジェラールの食欲をそそった。
食前の祈りを堂々とアスモデウスの使徒達の前で行い、いただきにかかる。
「とても美味しいですね。この煮込み汁なんて、絶品ですよ」
「鳥を丸々煮込んでいてね。朝食のために、くどくならぬよう丁寧に脂と臭みを取っている」
セドリックが自慢げに笑いかけてきた。
「野菜もたくさん入っているようですね」
「ああ、精力増強と催淫効果がたっぷり詰まっている」
ジェラールが咳き込んだ。
それをメルルナがくすくす笑った。
「セドリックの冗談ですわ、ジェラールくん。安心なさって」
「質が悪いですね……」
本当に冗談だろうか?
疑いながらもジェラールが全て平らげると、メルルナが微笑みながら切り出してきた。
「さて、ジェラールくん。あなたはこれからどうなさるの?」




