第四十一話
フォルセウス渾身の剣を、ユーグが受ける。
今のジェラールならば、それを剣で受ければ防ぎきれずに七回死んでお釣りの来る威力だろう。
それを受け止めるユーグの双剣は、不気味な羽音を奏でていた。
オウルを注がれて超高速の振動を繰り返す双つの刃。
だがフォルセウスの剣もまた、雄渾なマナがこもっている。
互角か。
いや、
「ゼイッ!!」
ユーグが優勢だ。
フォルセウスが押し切られて後退する。
既に、ふたりの頭上には天使の輪が輝いている。
奥義を極めた者の溢れるマナの象徴と、奥義を極めた者の溢れるオウルの象徴。
これら辿り着いた者達のマナを特別にウィルトゥス。
これら辿り着いた者達のオウルを特別にアインソフオウル。
人々はそう呼んだ。
ウィルトゥスとアインソフオウルの使い手の戦いは、もはや神話上の戦いである。
フォルセウスは剣の一振りごとに、浜を切り裂き、海を拓く。
ユーグの身ごなしは七つの残影をその軌道に踊らせる速度であり、不気味な羽音を纏う双刃は触れた木が七秒を過ぎてようやく斬られたことに気づいて倒れる。
「い、今の内です……!」
その攻防からジェラールとララは這う這うの体で遠ざかる。
「待て! ジェラール! 待て、メルルナ! おのれ! 逃がさんぞ! どこまでも追いかける! 絶対に逃がさんぞ!!!」
フォルセウスの妄執がこもった声が届く。
だがその怒声力をこめた分だけ、ユーグが付け入る隙になって追いかけるまではできなかった。
「その外套を纏っていながら、無様なものだ」
ユーグが冷笑した。
フォルセウスの纏う真紅の外套は、大天使ミカエルが残したものだと伝えられている。
由緒ある伝統の外套だが、真の役割は戦いの場でこそ機能する。
大天使ミカエルの外套は、使い手がマナを送り込むとそれを増幅して還元する装置として働くのだ。
伝説の武器や聖遺物には、この手の増幅器としての機能を有する物が多い。
だがそれだけに、扱うには高度な精神修行を完成している必要があった。
現状のフォルセウスは手中の玉が奪われた状態で恋敵と対峙するという、未だかつてないほどに心が乱れた状況にある。
真紅の外套が正常に機能しているはずがなく、ユーグを押し切れずにいた。
そのおかげで、ジェラール達は天使級の戦いからどうにかこうにか逃げ切ったのだった。




