第三十八話
外に出て、メルルナが小さく声を上げて目をつぶる。
メルルナは、長い年月を暗い洞窟の中で過ごしていた。
柔らかな日の光とて、ジェラールの背中で、目を開けていられないのだろう。
「メルルナ様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よララちゃん。さぁ、わたくしよりも部屋の周辺を探ってちょうだいな」
「はい」
そっと、ララが扉に手をかける。
ゆっくりと開く途中、
がっ
と、向こう側から突然力がかかる。
勢いよく、開かれたのだ。
そして外から、ずかずかと数人の修道士が入ってくる。
中位弟子だ。
四人が、出入口を固めるように集まってきた。
じろりと部屋の中を一瞥して、ジェラールに厳しい視線を向ける。
「ジェラール殿、探しましたよ。またこの院長室だろうと思っていましたよ。しかもどなたですかな、この女性方は」
しまったという思いで、ジェラールの顔が引きつる。
深夜から部屋を抜けていたのだ。
朝食の時間に、おそらく中位弟子に不在が伝わったのだろう。
中位弟子には良く思われていない。
昨日、院長室で悪さをしているような疑いを持たれているだから、改めてここを張りこまれていたのだろう。
「いつの間に忍び込んだのが分かりませんが、何をしていたのか説明していただきましょうか」
ずいと中位弟子のひとりが進み出る。
特にジェラールを目の敵にしている男だった。
ベルゼブブの使徒の話をしていた下位弟子達を追い散らした修道士である。
「その女性二人はどなたか、説明を……ん? この匂い?」
近づけばはっきりとするメルルナからしたたるフォルセウスの精の匂いに、修道士が顔をしかめる。
「神聖な修道院の、それも院長室でなんたる不埒を!」
「ち、違うのです、これは……その、私とではなくて、」
「待て、その顔……」
修道士のひとりが、がっとジェラールの肩を掴んで引き寄せた。
それでメルルナの顔を確認してさっと青くなる。
「アスモデウスの導師だ!」
修道士達が一様に、信じられないものを見る顔になる。
だがすぐに殺気立ち、各々剣を抜き放った。
「アスモデウスの導師を引き入れて何をしようとしていた!」
「いえ、これにはわけが……」
だが話せるわけがなかった。
なにせフォルセウスの醜聞だ、信じてもらえるはずがない。
言葉に詰まっていると、メルルナの顔を確認した修道士が剣を突き付けてくる。
初撃は躱せたが、背中にメルルナの重みできわどいところだ。
「ここは強行突破と致しましょう!」
ララが叫びながら、薄桃色の吐息を修道士に吹きかけた。
もろにそれを吸い込んだ修道士は、糸が切れたように崩れ落ちる。
「殺しておりませんよね!?」
「淫らな気持ちで夢を見ていただいているだけですわ」
倒れた修道士を踏み越えて、さらにふたりが迫りくる。
そして出口をひとりが塞いでいる状況。
「ララちゃん」
「はい、メルルナ様」
アスモデウスの子弟が阿吽の呼吸で通じ合う。
ララがメルルナの唇に吸い付いた。
可憐な乙女と、妙齢の美女の濃厚な接吻に、場の誰もが目を見張る。
ふたりの唇が離れた時、ララの頬が膨れていた。
瞬間、さっきよりも濃い桃色の呼気がララから吹き出でては、迫りくるふたりに直撃した。
メルルナが練った毒を、ララが吐き出したのだろう。
直撃したふたりが崩れ落ちるのはもちろん、部屋に淫毒が充満しそうになって出口を固めていたひとりも慌てて飛び出す。
「今のうちに!」
ララが手引きして、窓を突き破って外へ出た。




