第三十四話
院長室に現れた洞窟の口に、ジェラールの顔が驚愕に塗りつぶされる。
「なんですか、これは……!?」
「牢ですわ。ここに、アスモデウスの導師メルルナ様が監禁されております」
「メルルナ!?」
ジェラールの声が上ずる。
その反応には、ララも自慢げだ。
「ジェラール様にも、その悪名が届いておいでのご様子。導師メルルナ様……わたくしの伯母というのも、本当ですのよ」
「そ、そう……でした、か……」
戦慄というには、歯切れの悪い反応。
恐れていないのだろうかと、不思議そうに小首をかしげるが、それはさておいてララが奥へと足を踏み入れる。
ジェラールも、それに続いた。
洞窟の岩肌は、荒いが手が入っている。
天然のものを整備したのだろう。
ララが手持ちの燭台に火を灯した。
暗い、暗い洞窟の行く先を照らすにはいささか頼りない光だ。
ララが岩肌を探れば、本棚が横滑りしてに戻る。
そして歩を進めた。
ジェラールも追従すると、ゆっくりとララが語り始める。
「そもそもベルゼブブの導師がアスモデウスの使徒の教区を荒らしたのには理由がございました」
「導師が不在故の略奪では?」
「メルルナ様の行方を捜していたのですわ」
「はぁ?」
「ベルゼブブの導師ユーグは、わたくし達の勢力圏に踏み込んで、メルルナ様の跡を追っていたのですわ」
「それは……ユーグ殿がメルルナ殿を助けたいと思っておいでなのでしょうか?」
「そうですわ。ただし、本当にメルルナ様だけが目的。他のアスモデウスの使徒の死には、冷酷なものなのです」
「それは……なんとも」
「わたくし、導師ユーグの動きには違和感を覚えまして、逆に探りを入れて差し上げましたの。それでメルルナ様が誘拐されたのだと突き止めたのですわ。導師ユーグは、さらに聖ミカエルの山に監禁されているのではないかと、あたりをつけておいでだった様子。しかし導師ユーグも位階の高さ故、自由が利かない。先んじて、わたくしがこうして潜入に成功した次第ですわ」
と、楽しそうにララは語る。
ジェラールは、今の状況と情報の整理が追い付いていなかった。
「ええと、すみません、私の頭ではまだ少し追いつけませんよ」
「うふふ、それではご本人にお話を伺いましょうか」
ララの足が止まった。
洞窟の奥。
寝台や机がある、整った部屋が姿を現す。
灯りがあり、高貴な者の一室さながらの様相である。
ただし鉄格子の向こうにあつらえられた部屋である。
そこには女がひとり、寝台に腰かけている。
長い髪の、艶めいた美女だった。
ララの姉と言われて信じてしまいそうになる。
嗚呼、十年前と、変わらぬ姿だ。
いや、下手をすると今の方が若々しいかもしれない。
「メルルナ様、お連れしました。こちらジェラール様ですわ」
「ご苦労様、ララちゃん。良い子ね」
簡素な衣を纏っていながら、着飾った美女らをすら凌ぐと思わせる華美を持っていた。
アスモデウスの導師メルルナ。




