表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
34/244

第三十二話


 院長室から帰る途中。


 聖堂のあたりでジェラールを見咎めた中位弟子が、フォルセウスへとさっそく報告しているのが見えた。


 フォルセウスは困ったような顔をして、こちらに気づいて近づいてくる。


 離れてゆく中位弟子は、してやったりという顔だ。


「ジェラール殿、勝手に私の部屋に入られては困る」


「申し訳ありません」


「修道女を追いかけていたと聞いたが」


「はぁ、その……もしかしたら見間違いかもしれないのですが、ララ殿だったように見えて」


 フォルセウスの眉がぴくりと動いた。


「まだ去っていなかったと?」


「いえ、自信はないのです。見間違いだったかもしれません」


「いや……」


 フォルセウスが深刻そうな顔になる。


「アスモデウスの使徒は私に部屋に入ったのか?」


「いえ、いませんでした。何度か視線が切れてしまいましたから、私は全然違う方向を探していたようです」


 フォルセウスが黙り込む。


「ジェラール殿、私はこれで失礼する。院内は出歩いても構わんが、人の部屋に無断というのは、よしてくれたまえよ」


「はい、申し訳ありませんでした」


 速足に奥へと消えてゆく背を見送り、ジェラールは自分の客坊に戻って瞑想にふけった。


 フォルセウスと再び顔を合わせたのは、昼過ぎのことだった。


 昼食を終わらせて、膳を片付けに厨房へと赴く途中。


「ジェラール殿」


 真紅の外套を纏い、身なりを整えたフォルセウスが声をかけてくる。


「フォルセウス様、お出かけでしょうか?」


「ああ、アヴランシュの町へ定例の集会がある。今晩は帰らぬ」


「いってらっしゃいませ。どうかお気をつけて」


「それで、なのだが……もしもアスモデウスの使徒が現れたら、その時は頼むぞ」


「ええ、もう体は十分に癒えました。もう不覚は取りません」


「……頼んだ」


 何か、フォルセウスに歯切れの悪いものを感じながら、ジェラールは見送りをする。


 それからすぐに満ち潮の時刻になる。


 修道院から聖ミカエルの山が海で閉ざされるのを眺めながら、もしもララがここにいるならば逃げ場はないはずだと思った。


 その夜は終課の鐘を耳に、意識を眠りの闇に落とした。


 そしてふと、匂いに目が覚める。


 媚香の匂い。


 ほんの、本当にうっすらとだがジェラールの鼻に届いていた。


 静かに、ジェラールは起き上がる。


 窓の向こうに浮かぶ月の位置を見れば、深夜だった。


 剣を掴んでは客坊を出て、その匂いの元をたどった。


 すぐに、これが自分にだけ分かるようにした残りがだと直感する。


 誘っているのだ。


 奥へ、修道院の奥へと誘うような香りの残し方だ。


 すぐに霧散しそうになるのを、懸命に辿る。


 その最中、既視感を覚えた。


 昼に辿ったのと同じ道筋だ。


 つまり院長室へと、つながっている。


 院長室の扉の前に立てば、媚香の匂いが霧散した。


 扉の向こうに、いる。


 昼にフォルセウスから無断の入室をたしなめられたばかりだが、事が事だ。


 院長室へと、足を踏み入れた。


 修道女の姿に扮したララが、机の上に腰かけて待っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ