第三十一話
次の日の朝、ジェラールは体の調子を確かめるためにもアヴランシュの町まで足を運んだ。
ユーグに破壊された剣の代わりを買うためだ。
つつがなく購入も済ませ、悪くない一振りを新たに腰に携えて聖ミカエルの山に戻る。
もうすっかり、動きは良くなっていた。
相変わらず聖ミカエルの山に人の波は絶え間なく、活気に満ちている。
誰もかれも、大天使の聖地にに辿り着いたのだという達成感に輝いている。
山頂の聖堂までの道のりも、坂が厳しいのにもうひと踏ん張りと溌剌としたものだ。
人の流れに沿いながら、ジェラールはぼんやりとユーグとフォルセウスについて考えていた。
ユーグには、もう一度会わねばなるまい。
だがそのためには、師へ届けた手紙の返事を待つ必要がある。
ローマとの往復だ、まだ時間はかかるだろう。
その次に、フォルセウスに挨拶をせねばならない。
そしてこれに関しても、師の返事があれば話が円滑に進む。
ただし勇気の要。
大きく息を吐き、ジェラールの視線が遠くを見るようになる。
「……あれ?」
その焦点が、人波に揺れるひとりに定まる。
修道女だ。
いや、あれは。
修道女の格好をした、ララではないのか?
山を上る方向、聖堂への道。
ジェラールが、黄天派の身ごなしでそれを追いかけた。
しかしいかんせんこの人の数だ。
ララらしき修道女の姿が波に紛れてしまって何度か視線が切れる。
それでも何とか往来を縫って坂を上り、聖堂に入って行く後姿を認めた。
「失礼、失礼します」
決して人に触れず、するりするりとジェラールが進んでいく。
聖堂の入り口なのだから、人が自然と集中するのにお構いなしに踏み込んだ。
何人かは、割り込まれたと思ってむっとした顔になっている。
聖堂へ飛び込んで、一面を見渡すと奥の扉に消えていく修道女の後姿を認めた。
速歩にジェラールも扉へとたどり着く。
突き当りの曲がり角の向こう側に、ひらりと修道女の衣の裾が翻るのが見えた。
奥へ、奥へ進んでいる。
人は少なくなっているが、その分建物の奥だ。
視線が切れる回数がぐんと上がってしまう。
勘に頼って何度か曲がることもあったが、何とか裾を追えていた。
やがて、院長室の前にまで来てしまった。
そこで行き止まりだ。
というか、他に道がないはずなのだ。
自信はないが、こちらに来ているはずという道理。
院長室の扉を叩いてみる。
返事はない。
「失礼します」
開くと、無人の部屋がジェラールの目に飛び込んでくる。
部屋の主の気質を表すように、調度品も必要最低限のさっぱりとした室内だった。
寝台の下くらいしか人が隠れられるような場所などないが、無論いない。
はて、見間違いだったか。
「何をしている」
どこかで見失っていたかもしれないと、小首をひねるジェラールの背後から声がかかる。
振り返れば中位弟子のひとりが、胡乱げな顔で立っていた。
「あの、すみません、こちらに修道女がいらっしゃいませんでしたか?」
「こんな所に入ってくるはずがないだろう」
「そう、ですよね……」
やはりどこかで見失ったままここまで来てしまったのだろうか。
そもそもあれがララだったかも確証がない。
「あまりうろうろされると困りますな。院長室に勝手に入った事は報告しておく」
ふんと鼻を鳴らして、中位弟子が去っていく。
改めて院長室を見渡してから、ジェラールも部屋から出ていく。




