第二十九話
「ジェラール様はこれをどうやって破ったのですか?」
「いえいえ、私の武学では破る方法など思いつきませんでした」
そこで、ガズーの攻撃を寸前で避けて、ダズーの拳と相打ちになった場面を再現する。
「このように、どうにか相打ちに持ち込んだのですよ」
再現を食い入るように見つめていた少年達に、ジェラールは微笑みかける。
「私では破ることはできませんでしたが、皆さんはいつか打破する武術に至ってくださいね」
「はい、必ずやこの技を破って、ベルゼブブの使徒達を誅滅します!」
「僕も早くフォルセウス様やジェラール様のように、悪魔の使徒達を誅滅できる修行を頑張ります!」
少年達が、我も我もと手を挙げる。
曇りない双眸に、ジェラールは困ったような顔をする。
「……私は、悪魔の使徒達を殺さぬように修行をしております」
「えっ?」
「殺さずに、どうか回心をしてくださる機会を見出して欲しいのです。ベルゼブブの使徒にも、アスモデウスの使徒にも」
「ですが、悪魔の教徒達は地獄に堕ちるべきなのではありませんか?」
「フォルセウス様は教えてくださいました。悪魔の徒は速やかに地獄へと堕とすべきだと。奴らはそれを望んでいるのだから、そうすべきだ、って」
ジェラールが少し思案する顔になる。
そしてひとつの聖句を口ずさむ。
「わたしたちは、律法は霊的なものであると知っている。しかし、わたしは肉につける者であって、罪の下に売られているのである」
「聖パウロの、ローマ人への手紙ですね」
「そうです。聖パウロも、罪に対してとても思い悩んでいました。主の定めたもうた聖なる律が確かにそこにある。なのに、肉体を持つ我々はどうしても罪を犯してしまう、と。皆さんにも、ついつい罪を犯してしまうことは、ありませんか?」
優しく微笑みながらジェラールが場を見渡す。
少年達は、あるいは自信満々にないと言い切り、ある者は目を背けた。
「聖パウロや皆さんは悩むことができる。正しい心を持っています。しかし悪魔の教徒達は、罪を犯してしまうことに対して、心を棄ててしまっているのです。罪から目を背けて生きている。しかし、人はその罪と向き合って、それを乗り越えて懸命に生きていくことでこそ、本当に満ち足りることができるのだと思います。その機会を、殺すことで永遠に失ってしまうのは……哀しいことだと思います」
少年達が、顔を見合わせる。
あいまいにだが、頷く者もいた。
「でも……フォルセウス様は」
「これはフォルセウス様の考えではなく、あくまで私の考えです。皆さんに強要するものでは、ありません。ただ……ただ、知っておいて欲しかったのです。このような考えもあるということを」
ジェラールの言葉に、少年達が神妙に頷き合い、ひそひそと話をする。
何人かの心には、ひっかかるものを送れた手ごたえだ。
もちろん、吟味した上でどのような道を往くのかは、各人次第だろう。
願わくば、この戸惑いを少年達には糧にして欲しいとジェラールは思った。




