第二十六話
ジェラールの神妙な語り口に、フォルセウスも眉根を寄せた。
「何故だ?」
些事ではない事情を見て取るには余りある。
一瞥だけ、ジェラールが周囲を見渡す。
下位弟子や、中位弟子もいる。
何よりも、フォルセウスの性格を考慮すれば、言えるはずのない事実があった。
唇を二度、三度わななかせ、閉じた。
そして破顔して、おどけた声を解き放つ。
「いや~私の師匠がうるさい人でして、聖ミカエルの山の修道院長に教えを受けたなんて話をすれば、「そうかそうか、そのような高名な御仁に教えを受けたのならばもうわしなんて必要ないな。わしなどよりも、フォルセウス殿の方がさぞ有意義な教えを授けてくれたであろうな」とへそを曲げてしまいますよ」
それに下位弟子達はくすくす笑う。
だがフォルセウスはくすりともしなかった。
そして何かを察したように、苦笑を零して肩を叩く。
「そういう事情ならば、仕方があるまい」
「本当に申し訳ありません、フォルセウス様のご厚意を……」
「いや、流派ごとのけじめは大切なことだ。しかし、」
フォルセウスうの声が周囲に聞こえぬように絞られる。
「隠し事のけじめがつけば、いつでも歓迎する」
ジェラールの眉根が、泣きそうな形にゆがんだ。
「……その時はどうかよろしく願いいたします」
神妙に礼を向けるジェラールだが、中位弟子達はそれを面白くなさそうに見ていた。
もっともらしい弁論だが、とどのつまりはフォルセウスを無下にしたのだ。
すなわち聖ミカエルの山の一門をないがしろにしたに等しい。
中位弟子でくすぶっている者は特に面白くない。
早く上位の教えを得たいのに、ぽっと現れたジェラールがさっさと認められているのだ。
しかもあまつさえ、それを断るなど名誉が傷つけられた心地であった。
それからしばらくすると、潮が満ち始める。
剣の稽古を引き上げる頃合いだ。
引き上げる前に、潮に巻き込まれそうな者がいないかを見渡すのも修道士達の役割だ。
聖ミカエルの山の潮流は速く、気づけば波に足を取られ、あっという間に流されるほどである。
それから再び山を登り、修道院へと戻る。
ちなみにフォルセウスを筆頭に、修道士達は鍛錬用の峻厳な道を駆け上っていた。
断崖と言えるような斜面で、落ちたら大怪我をしかねないほどの角度だがフォルセウスはすいすいと登っていた。
一方で、下位弟子は四苦八苦、落ちかねない危うさである。
というか何人か未熟な修道士が落ちた。
それをフォルセウスが颯爽と救出しては、そのたびに遠目から見ていた参拝者達が喝采をした。
潮が満ちたおかげでこれ以上やってくる者はいないが、それでも島に残っている人数は多い。
やがて、修道院の一室に戻ってしばらくして晩課の鐘が鳴る。
日没を知らせる鐘である。




