第二十五話
ジェラールが気息を整え、マナを巡らせる。
フォルセウスのマナも高まっていくのが、傍目にも分かった。
ふたり、木剣を構えたまましばし動かぬ状態が続いた。
鏡合わせの様に、上段の構えだ。
さざ波の音が、いやに大きい。
まずジェラールが気勢をあげて走った。
雄々しいまでの深い踏み込み、振り下ろす剣筋は雄渾の一言。
ばし
と、それをフォルセウスが受けて、弾く。
ジェラールの木剣が右へ流れる。
瞬間、フォルセウスが胴へと撃ち込んできた。
堂々と力強い、見事な剣筋である。
ジェラールは弾かれた剣を、威勢よく引き戻してフォルセウスの木剣を叩き落す。
つもりの一手だったが、巌のような抵抗力で堪えられた。
木剣が交わり、押し合いになる。
ジェラールが、完治していない痛みに少し退いた。
フォルセウスは容赦なく、押し込んでくる。
押し込みで生まれた距離で剣勢をつけた、大上段の振り下ろしが来る。
押されて屈した分、ジェラールは柔軟な身ごなしで跳ねる力に還す。
振り下ろされる木剣へと、振り上げる木剣をぶつければ、二振りともへし折れた。
舞う木屑の向こう側でフォルセウスが微笑していた。
「見事」
「御教授、ありがとうございました」
随分と鈍っていたが、そこはフォルセウスがあわせてくれたと肌で感じた。
最後の相打ちで木剣が砕けたのも、ジェラールのマナの量を見極めた同水準の撃ち込みだった結果だ。
「赤天派剣術要諦は十分に心得ておるようだ」
「いえ、そんな……」
「ガルガーノの山の赤天派剣術とも微妙に違うようだな。赤天派ではない、他の剣術で独自の境地を持っておる。黄天派剣術かね?」
「黄天派の武術も手解きを受けた程度で……」
「謙遜を。あのユーグと打ち合った腕、打ち合って得心したわ」
随分な褒められように、ジェラールも恐縮してしまう。
ぽんと、フォルセウスに肩を叩かれる。
「剣を砕かれねば、あの導師を相手にしても一矢報いる事ができていたであろう」
「あれは、私のマナ修養の未熟が招いたことだと痛感しております」
「剣術は、既に独自の境地に至っておる。ならば無理に赤天派剣術を体に覚えさせるよりも、マナの修養をいくらかお教えしよう」
周囲の下位弟子達が、その言葉に驚いて剣を乱す。
「こらこら、奥義を伝えるわけではない。あくまで伝えられる範囲だ。集中をせんか」
苦笑したフォルセウスのたしなめる声が下位弟子達に飛んだ。
いかに強力な剣術でも、マナの裏打ちがなければ問題にはならない。
ユーグの圧倒的なオウルに、ジェラールの攻撃ことごとくが通じなかったように。
剣術とマナ、どちらが本当に肝心かと言えば、マナの修養にこそある。
しかしだからこそ各流派ごとに独自のものがあり、ものによっては秘伝だ。
おいそれ伝えていいものではない。
「修道院の奥に、上位弟子達が瞑想している場所がある。明日から、そちらへ来るとよい」
「よ、よろしいのでしょうか?」
ジェラールの声も、望外の喜びに上ずっていた。
「マナの修養を深めれば、完治も早まろう。それに、」
フォルセウスが遠く、陸を見遣る。
その視線の先には、ジェラールを助けた場所があった。
「再びユーグと出くわさないとも限らん。その時に、同じような結果にならぬように、だ」
「……」
ユーグの名が出て、ジェラールの表情が強張った。
最前、浮かんだ喜びが全て沈んだ顔。
何か痛烈な失敗を思い出したような。
そんな顔だ。
「どうした?」
その落差に、フォルセウスも思わず心配そうに覗き込んでくる。
見返すジェラールのまなざしには、慚愧。
「……申し訳ありません、フォルセウス様。私は、その……フォルセウス様のご厚意を受け取るわけには参りません……」




