第二十四話
それから何日か、ジェラールは食べては眠っての生活を過ごす。
折を見てフォルセウスがマナを分けてくれたおかげで、回復は長足に捗った。
立って歩けるようになったのは、ユーグとの戦いから十日目のことだった。
しかし修道院は山の形状をした岩島の上に立っており、これを上り下りするのには苦労した。
上り下りで息が切れなくなるのに、さらに数日が経ってからだ。
この散策で歩く聖ミカエルの山は、いつもにぎやかだった。
それだけ参拝に来る者が多いのは、間違いない。
だがそれ以上に島の形状のせいで道が限られており、絶え間ない人の波でそれも詰まっているせいだ。
さらに参拝者達を迎えるための食事処や旅籠も詰め込んでいるため、密度が高く喧騒が絶えない。
そんな人波をするすると黄天派武術の体運びで避けながら、ジェラールは浜へと降りてゆく。
引潮の時刻である。
海底が姿を現して、白い砂州が島と陸をつないでいた。
ジェラールの目的は、浜で行われている稽古の見物だった。
フォルセウスの指導の下で、聖ミカエルの山の修道士達が木剣を振っている。
大天使ミカエルの剣術、赤天派剣術であった。
特にこの聖ミカエルの山の聖堂は、大天使ミカエル直々に建立の天啓があったとして名高い。
永遠の都ローマの東にあるガルガーノの山と共に、赤天派剣術の二大門派として並び称されていた。
ガルガーノの山もまた、大天使ミカエル顕現の伝説が残っており、聖ミカエルの山よりもさらに歴史が古い。
修道院長のみが纏える真紅の外套も、元をたどればガルガーノ山から譲られたものだ。
この外套がまた、大天使ミカエルが残したと伝わる霊験あらたかなものなのである。
そういうわけでガルガーノ山とは歴史の古さに明確な差はあるが、なにせ聖ミカエルの山の赤天派剣術一門は精強で有名だ。
ガルガーノ山に決して引けを取らぬだけの格を備えていた。
特にこの周辺地域は、フォントノワの戦い以降、海賊の略奪が年々ひどくなってきている。
それをフォルセウス達はたびたび打ち破っており、またそれが名を高めているのだ。
そんな実績も、日々の地道な稽古の賜物なのだろう。
遠目からも、弟子達と打ち合うフォルセウスの意気は炎のように盛んである。
フォルセウス直々の打ち合い稽古に区切りがついた頃合い。
参拝者達に混ざって稽古風景を眺めていたジェラールに気づいたらしい。
こちらに近づいてきた。
「もう随分とよくなったようだ」
「おかげさまで」
「ジェラール殿も汗をかいていかぬか?」
「よろしいのですか?」
「眠っておる時、体を診させてもらった。剣術を使う者の体のでき方をしていたな。遠慮することはないぞ」
「実は赤天派剣術の本場で、少しでも教えを乞うことができればと旅の最中に考えておりました」
フォルセウスが、弟子のひとりに木剣を持ってこさせてジェラールも稽古に混ざった。
まずは下位弟子達と並んだ素振りである。
見まねで型をなぞった。
ジェラールはローマで赤天派剣術の初歩を習った。
その剣勢はガルガーノの山の気風が強く、打ち込みひとつ取っても正ミカエルの山のものと趣を異にしていた。
下位弟子達の素振りの隣では、中位弟子同士が木剣を打ち合う。
フォルセウスは中位弟子達と下位弟子を順番に見て回っていた。
丁寧な指導でじっくりと時間をかけていたが、やがてジェラールの所へやってくる。
じっと、フォルセウスがジェラールの動きを値踏みする。
「動きに無駄がない」
そしてジェラールの剣筋をそう評した。
「恐れ入ります。しかし赤天派剣術の剣筋は、未だ体に馴染んでおりません」
「……少し、打ち合うか」
フォルセウスが、木剣を取って広い場所へ導く。
いささか困惑したが、これも機会かとジェラールがそれに続いた。
中位弟子達が手を止めて、注目し始めた。
下位弟子達も、手を止めずに素振りのままジェラール達を目で追う。
「よろしくお願いいたします」
「好きに打ちこむがよい」




