第二十二話
食事を済ませたジェラールの客坊に、改めてマナを分けてくれた達人の修道士が訪れる。
「加減はどうか?」
「随分と体が痛みます。ですが、経緯をお話しいたしますよ」
その言葉に、修道士が意表を突かれた様子だった。
それもすぐに微笑になって十字を切る。
「強い男だ。ありがたく思う。私は、フォルセウス。この修道院の院長をしておる」
「ジェラールと申します。聖ミカエルの山へ、巡礼の旅をしておりました」
「失礼ながら、頭陀袋の中の冒険の書を拝見させてもらった。だが、より詳しい話を聞かせてもらいたい」
「もちろんです」
それから、ララがベルゼブブの使徒達に襲われている時から、順を追って説明しはじめた。
話終えれば、ジェラールが水差しを煽る。
「難事であったな」
「ユーグ殿から助けてくださったのは、フォルセウス様でしょうか?」
「まさしく。通報があったのだ。導師かもしれぬという言伝もあり。念のために私自らが巡邏に出向いた」
「……通報したのは、ララ殿と思います」
「話を聞く限り、私もそう思う」
「あわよくば、フォルセウス様とユーグ殿が相打ちになればというところでしょうか」
「……もしかするとアスモデウスの使徒なりの情だったかもしれんな」
フォルセウスが、とても真面目な顔で呟いた。
「……あの小悪魔のような奔放さでは、それはないかと」
「そうかもしれん」
フォルセウスが苦笑する。
そして、巌のようなその顔を引き締めて、告解をする時のように真剣な面持ちで十字を切った。
「ジェラール殿、相済まなかったな」
「フォルセウス様、なにを?」
「アスモデウスの使徒も、ベルゼブブの使徒も、こうまで好き勝手させた私の不徳をだ」
「そんな、フォルセウス様の責任ではありますまい」
「いいや、アスモデウスの使徒もベルゼブブの使徒もこの教区から殲滅するは、赤天派の一門の長として責務である。それを実行しきれておらぬのは、私の果断が足らなんだせいよ」
フォルセウスが、大きく息を吐いた。
「特にアスモデウスの使徒は、攻め滅ぼす好機がこの数年何度かあった。しかし近隣の司教や、騎士に呼びかけしても、いざとなると弱腰になって十分な兵力にどうしても届かぬ。私の信仰心が、十分な求心に至っておらぬ不功よ」
「そんな……フォルセウス様、そう強硬にならずとも。悪魔の教徒達って回心の機会があっても良いではありませんか」
「いいや、堕した魂は我が赤天派の裁きの剣にて断つのみだ」
まるで岩のような重く固い声だった。
ごくりとジェラールが息を呑む。
「私は……堕ちた魂こそ、救いあげられるべきだと思います。彼らの哀れなる境遇に、処方すべきなのが主の教えなのではありませんか?」
「丈夫な人には医者はいらない。いるのは病人である、か。その教えが既に広く示されている上で、あの悪魔の信者達は地獄を望んでおるのだ。ならば望み通り、悪魔の御許に落としてやれば良い」
フォルセウスは、意志強く言い切った。
この問答は、おそらく平行線になるだろう。
加えて言えば、ジェラールには耳の痛みが過ぎる言葉だ。
ふと、ララの顔がよぎる。
フォルセウスに捕まって、既に処された後ではという疑念が浮かんだのだ。
「ララ殿の目的も、この聖ミカエルの山でした。彼女の言葉を信じるなら、ですが」
「来ていたとしても、既に四日が経っておる。ふっ、まさかひとりひとりを検問しておるわけではない。捕まえたという報告は上がっておらんよ。処断されたと、思ったかね?」
「あ、いえ……その、もう少し、ベルゼブブの使徒との勢力争いをしゃべらせればよかったと思いまして」
ふっと、フォルセウスが「本当にそれだけか」と言わんばかりに鼻を鳴らした。
ただ不思議と嫌味な響きよりも、からかうような響きが強いようにジェラールには感じられた。




