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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第十六話


 町を出て一望できる景色は壮観だった。


 丘を下っていくと広がる平野の緑と、その向こうに広がる海の蒼が景色の中で綺麗に分かれている。


 その緑の中に聖ミカエルの山への参拝へ赴く者達を小さく俯瞰できた。


 そして景色の蒼の中には、荘厳なまでに堂々たる岩山とそこに建つ修道院。


 つい見惚れてしまうが、ジェラールは速足に歩き出す。


 急ぐ必要はないが、ララが気になった。


 聖ミカエルの山が目的地なのは、本当に聞こえた。


 何をするかまでは分からないが、邪教徒がただ参拝するだけで終わるとは思えなかった。


 一刻も早く、現地の者達に報告をしておきたい。


 その道の途中。


 ジェラールの前に、音もなく現れて立ちふさがる者がいた。


 枯れ木のような男である。


 こけた頬に、落ちくぼんだ目。


 そして顔面を斜めに走る剣傷が特徴的な男だった。


 一見するとやつれた風貌だが、ジェラールにはその身に充実した精気が見て取れた。


 使い手だ。


「女はどうした?」


 静かな、しかし深い声だった。


「はぁ、逃げられてしまいまして……しかし、どうして私の道連れをご存じで?」


「お前の後ろからくる者たちから聞いた」


「追いついたぞ」


「追いついたぞ」


 男の言葉に振り返れば、怒声を筋骨隆々の男達が駆け飛んでくる。


 なんとベルゼブブの使徒の兄弟である。


 一目で、既にジェラールのマナの封印が解かれているのがわかった。


 しかし復讐に燃える双眸は、教会に改宗した様子ではない剣呑さだ。


「導師、この男です」


「どうか我らに雪辱を晴らす機会を!」


「導師ですって!?」


 導師。


 悪魔を信奉する邪教徒達を、教導する立場の者達の総称である。


 教会における司教の位階に相当する者達であり、この兄弟の師匠なのだろう。


「やってみろ」


 導師は顎で兄弟に指図して、手を出さぬ様子だ。


 師の許しを得て、兄弟がにやりと笑う。


「今度は前のようにはいかんぞ教会者め、覚悟しろ」


「今度は前のようにはいかんぞ教会者め、覚悟しろ」


 そして鏡写しの様に拳を構えて、ジェラールを挟み撃ちする位置を取った。


 屈強な兄弟の重厚な構えに挟まれて、山と山に囲まれるような威圧感である。


 対するジェラールは黄天派拳術の構えを取った。


 奮然とした気合を発し、山と山が動いた。


 速さはそれほどではないが、意気だけで人を押しつぶさん迫力がある。


 ひとたび迫られれば逃げ場も見いだせず、ぺしゃんこにされる威力がこの兄弟拳法には十分にあった。


 だがそれでも黄天派の風のような身ごなしをもってすれば、常人では見いだせぬであろう兄弟の拳勢の逃げ道へ飛び込める。


 そこへ風の身ごなしで走ろうとすれば、


「!?」


 枯れ木が立っていた。


 いや、ベルゼブブの導師。


 絶妙な立ち位置である、これでは踏み出せない。


 なるほど、自分は手を出さないが、ジェラールを逃がさぬ壁にはなるらしい。


 慌てて弟の拳をジェラールが受け流す。


 ずがん


 と、弟の拳が地面を砕いた。


 その背後から、兄の拳が突き出される。


 ジェラールはその場で風を纏う自転。


 その回転に兄の拳を巻き込んで、弟へと撃ち込むように誘導した。


 風の如き速さと柔らかさを大いに活かした、見事な黄天派武術である。


 だが兄弟独特の呼吸で、弟が兄の拳を掌で受け止めれば、ふんと一声。


 弟が兄を振り回すように手繰り寄せ、旋風が逆巻いた。


 弟に引き寄せられる助勢を借りた兄の拳が、黄天派武術の風を打ち砕く勢いで放たれる。


 地を割る拳を、二重にしたような威力をジェラールは交錯した両腕に受けて吹き飛んだ。


「ぐっ……!」


 どん


 と、その背に何かがぶつかる。


 いつの間にか回り込んでいた、導師だ。


 それで、吹き飛ばされた勢いで距離を稼ぐこともかなわなくなる。


 背に導師という壁。


 前からは、迫りくる山と山。


 さらに先程の攻撃で両手が痺れてしまっている。


「もらった!」


「もらった!」


 兄弟がお互いにお互いの破綻を補い合うような、完全な呼吸で拳を撃ち込んできた。


 活路は針の穴ほどしかない。


 ジェラールは、気炎を上げて身を捻り、兄の拳を躱して弟へと蹴りを繰り出す。


 一挙動のことだった。


 兄の拳が、頬の皮膚を破り顔面を通り過ぎる。


 そして弟の拳が、胸部に痛打した。


 だが同時、弟の胸にもジェラールの爪先が突き刺さる。


 弟がくぐもった悲鳴を上げて地に崩れ落ちる。


 ジェラールも、肺と心臓が裏返るような激痛を瞠目してこらえた。


「貴様!」


 弟がやられて兄が拳を乱打してくる。


 激痛をこらえながらのジェラールは、それをどうにか捌くので精一杯だ。


 弟の痛打で身ごなしが鈍ったジェラールはいよいよ追い込まれていく。


 気息を整え、マナを巡らせて痛みを和らげようにも間に合わない。


 そしてついに、兄の右拳がジェラールの体幹を捉える軌道に乗った。


「弟者の仇ィィィ!!!」


「くっ! 神よ、この者の血が流れ過ぎぬようお守りください!」


 ジェラールが剣を抜いた。


 剣光一閃。


 その右拳を断絶せしめる剣筋が閃いた。


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