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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第十五話


 道行き、助祭にいくつか道具を持ってくるように指示を出す。


 そして庭に出たふたりは、まずは地面に小さな穴を掘った。


「司祭様、道具を持ってきました」


「ああ、ご苦労様」


 それが終わった時分、助祭が道具を一式そろえて運んでくれた。


 司祭がその中から短刀を取り出し、聖水を振りかけてからジェラールに手渡す。


 ジェラールは、その短刀で左掌を傷つけた。


 ぽたり、ぽたりとしたたる血が穴に落ちるように手をかざせば準備は完了だ。


 右掌を差し出せば、司祭もその掌を合わせる。


 鏡合わせに掌を合わせる格好。


 まず司祭が瞑目して主に祈りを奉げ、十字を切る。


 ジェラールもそれに倣った。


「では、参ります」


「よろしくお願いします」


 司祭がマナを体内で巡らせ始めた。


 そして循環する中で練り上げられたマナが、掌越しにジェラールへと流れ込んでくる。


 それを受けて、ジェラールの左掌からしたたる血の量が増えた。


 やがてそれが鮮やかな赤色からどす黒い色に変わっていく。


 どす黒い血は、穴の中にしたたり落ちるといやに甘い匂いを放つ。


 媚香の毒だ。


 それを血と共に押し流しているのだった。


 淫靡な匂いに心を乱さず、ふたりは一心に神へ祈りを奉げながらマナを巡らせ続けた。


 やがて血が赤い色になると、司祭が抜けた血を補填するようにマナを送り込んでくれた。


 それから傷口を水で洗い、指でなぞれば肉がひっつきふさがった。


 どす黒い血が溜まった穴を埋めて、上から聖水をかけて十字を切る。


 これで解毒は終了だった。


 この時代、病や中毒は教会や修道院で瀉血してもらう治療が主であった。


 体内の毒を、悪くなってしまった血と共に抜くのだ。


 血を抜く方法として、聖職者のマナで押し出すのは主要な方法だった。


 腕の悪い者がすると、余分に血を押し出しすぎて患者に障る。


 今回ジェラールを診てくれた司祭は、ずいぶんと腕が良かった。


 流石、司教座のある町だ。


「お疲れさまでした」


「司祭様、ありがとうございます。すっかり良くなりましたよ」


「どうか無理はなさらぬよう。さて、冒険の書を記録していきますか?」


 冒険の書。


 旅する者達が、教会で書き留めてもらう道中の記録のことである。


 書とは言うが、羊皮紙を束ねたものがほとんどだ。


 特に商人層が用いており、ある程度の身分の証明にもなった。


 というのもこの紙媒体の情報の循環は、教会にとっても非常に有益だった。


 それだけに持つ者には礼遇や保証、また教会に不利益にならぬ程度の情報共有を許されていた。


 加えて教会の者しか分からない符丁を仕込み、注意喚起や重要な情報も各地に走らせることができた。


 この符丁は、冒険の書が邪教徒の手に渡った時に本当に重要な情報を隠すためのものだ。


 そして盗まれて悪用されそうな場合、それを逆手に取る武器にもなった。


 こんな話がある。


 ある時、教会の情報を盗もうと、巡礼者から冒険の書を奪ったベルゼブブの使徒がいたという。


 しかし身分を偽って最初に記録してもらった教会で正体を見破られ、符丁でこう書かれてしまう。


「この冒険の書の持ち主は、情報を盗もうとするベルゼブブの使徒である」


 こうして、行く先々の教会で誤った情報が書き加えられた冒険の書ができあがる。


 これを上役に持って行き、ベルゼブブの使徒の一団が損害を出すという話だ。


「では、お願いします」


 ジェラールは頭陀袋から羊皮紙の束を取り出して、恭しく司祭へと手渡した。


 それから改めて司祭の部屋で、冒険の書を綴ってもらいアヴランシュの町を出た。


 まだまだ日の登りきらぬ午前の朝であった。


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