第十四話
次の日の朝早く、ジェラールは教会へ足を運んだ。
毒を完全に抜くためだ。
アヴランシュの町には、司教座が設置されている。
つまりこの地方一帯の教区における中心なのだ。
それだけに教会も立派なたたずまいをしていた。
聖ミカエルの山に向かう参拝者は、ほぼここに寄るので、多く喜捨が集まるのは想像に難くない。
かつて聖ミカエルの山に聖堂を建てたのは、アヴランシュの司教であった。
大天使ミカエルのお告げを受けてのことだという。
当時の司教の夢に現れたミカエルは、西の湾上にある岩島に聖堂を建てよと申し付けた。
しかし司教がこれを真に受けずにいると、再び夢にミカエルが現れて申し付けたという。
今度もただの夢だと思い込んでいると、三度目のお告げがあった。
あまりにも司教が信じないので、夢の中でミカエルはその頭に指を突っ込んだ。
目覚めた司教が頭に触れると、なんと本当に穴が開いていたという。
ここに来てようやく夢のお告げが本当だと信じて、聖堂を建てたのだった。
百五十年近く昔の話である。
ジェラールが教会の扉を開けば、中には祈りをささげている者が数人いた。
彼らも、祈りを捧げ終えれば聖ミカエルの山へと赴くのだろう。
礼拝堂を見渡せば、司祭は旅人や信徒に対応中のようだ。
ジェラールも祭壇の前で祈りを奉げてから長椅子に座り、司祭の手が空くのを待った。
順番が回ってくるのに、そんなに時間はかからなかった。
「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょう?」
ジェラールは司祭にだけ聞こえる小声でささやく。
「実はアスモデウスの使徒に襲われまして」
「……奥でお話をうかがいましょう」
礼拝堂を助祭に任せて、司祭がジェラールを奥へ導いた。
司祭の部屋へと迎えられれば、ララがベルゼブブの使徒に襲われた時から遡り詳細を話す。
ただし昨夜の淫猥な攻防のくだりは、かなりぼかして話をした。
司祭もそこは察してくれた様子だった。
「それは大変な目にあわれましたな」
「つきまして、媚香の毒を完全に抜き去りたいのです」
「分かりました。ついてきてください」
司祭がにこやかに頷くと、裏手の庭にジェラールを導いた。




