第百十二話
ポリーヌの指南を初めて一週間が過ぎた。
元々、死んだ後に、頼った神父に基本的なマナの扱いは学んでいたらしい。
それでも復習に、初歩からなぞった修行となった。
そしてすぐにジェラールは悟る。
ポリーヌは天才的だった。
みるみるマナの扱いを覚えていくのだ。
おそらくマナを斬撃に乗せ、遠くの敵へ飛ばせる水準にあった。
「ポリーヌ殿は優秀すぎますね」
「はぁ……その、他の方の感覚が分かりませんので、良く分かりませんが……」
「他者のマナでずっと活動されていた。それは本来、自然なことではありません。ですが不自由をしないだけの操作の感性を、これまで無意識に養ってこられたのでしょう。それに今ポリーヌ殿の体内を巡っている、オーギュスタン殿のマナの質も良い」
ここ最近のポリーヌの食事は、ずっとオーギュスタン血とマナだったという。
オーギュスタンのマナはなかなかに純粋だ。
良い修行をしている証拠である。
「オーギュスタンさん……」
話題に上り、ふとポリーヌが心配げに呟く。
「オーギュスタン殿は、逃げ切れるとおっしゃいました。騎士ならば……きっと、ご自身の言葉を守ってくださいますよ」
「そう、ですね……」
少し、気まずい沈黙が流れる。
それを破ろうと、ジェラールが言葉を継ぐ。
「ポリーヌ殿、オーギュスタン殿はどちらの出身なのでしょうか?」
これまで意図的にオーギュスタンの話は避けてきた。
だがこうして浮かび上がったからには、ジェラールもつい聞いてしまった。
「生まれはランスだそうです。祖父の代から騎士であったと聞いておりますわ」
「ランスですか。由緒ある町ですね」
「祖父はルイ敬虔帝の戴冠式を見たことがあり、その神聖さに打たれて騎士を志したとか」
「主の思し召しでしょう。その背中を見て、オーギュスタン殿の父も騎士に?」
「はい。ですが……その、オーギュスタン殿の父は……」
「……フォントノワの戦いですか」
ポリーヌが控えめに頷いた。
十年前、フランク王国の全てを巻き込んで勃発した戦争の爪痕は深い。
参加した父を失った子は多いだろう。
「オーギュスタンさんは……父の最期に立ち会うことができたようです」
「それはせめてもの幸いだったかもしれません」
「……どうでしょうか。父が、天に召される瞬間まで、オーギュスタンさんはマナを注ぎ続けました。命をつなぎとめようと」
「それは……」
それはまるで、ポリーヌの最期のような。
「しかし……しかし、オーギュスタンさんの父はそのまま……」
「そう、でしたか」
同じような境遇で息を吹き返したポリーヌ。
息絶えてしまったオーギュスタンの父。
あの遍歴の騎士の複雑な胸中を察するには余りあった。
「それから長じて、修行のために遍歴をされて……その道中ルシファーの使徒との因縁ができてしまったようです」
「それを助けたのが、ポリーヌ殿だったのですね」
「一方的に助けたわけではなくて……その、その時は、私も血を求めていまして、いろいろと……お見苦しい姿だったのを、止めてもらったり……しましたから」
「支え合うことは、美しいことです」
ごにょごにょと、恥じらうポリーヌにジェラールは微笑を零した。
「そ、その後、オーギュスタンさんは、私を助けることを騎士道に見出してくださり……」
「今に至るわけですね」
「はい……」
「おふたり共に、お辛い経緯だ……何とか、私の方法で上手くいくと良いのですが」
「きっと上手くいくと、信じています」
「力を尽くします」
そうして話し込んでいるうちに、夜明けの時刻が近づいてきた。
ポリーヌは地下室へもぐり、ジェラールはひと眠り。
目覚めてから、ジェラールは食料がもうないと気づいた。
地下室をそっと開けて、小声でポリーヌへと声をかける。
「ポリーヌ殿、ポリーヌ殿」
「どうかされましたか?」
良かった、まだ起きていた。
「食料がもう尽きそうです。近くに村があるのですよね? 少し買いに行ってきます」
「あら、気づきませんでした。大丈夫ですか? まだ骨折は完治しておりませんでしょう?」
「おそらく大丈夫だと思います。なに、すぐに帰ってきますよ」
「分かりました。どうかお気をつけて」
「ええ、では」
しっかりと地下室を閉じれば、馬にまたがって出かけた。




