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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第百八話



 ぼろぼろの体に無理を強いて馬を走らせる。


 折れた手足が痛む。


 マクシミリアンの蛇腹剣を払った手が痛む。


 完全鎧の外套が飛んでいかないか、しっかりと押さえつけながらの騎乗だ。


 かなりの無茶だった。


 それでもジェラールは馬を駆り、森を抜けて平野を進む。


「ポリーヌ殿、行先があるのですよね?」


 君の村で。


 オーギュスタンの、別れ際の言葉だ。


 ポリーヌの村とやらが、近いのだろうか。


「……はい、ある村に向かっていただきたいのです……」


 完全鎧の中から返ってくる声は弱々しい。


 息も絶え絶えと言った風だ。


「だ、大丈夫ですか?」


「はい……私は、平気です、ですから……どうか、先に……ロワール川へ……今、ここはトゥールからロワール川を下った位置にいるはずです……まずは、ロワール川を見つけて、それから南へ」


「分かりました……!」


 丘を越え、平野を通り過ぎて。


 ジェラールはまずは川に行き会うために移動する。


 フランク王国のアクィタニア地域中央を区切るように流れるのがロワール川だ。


 セヴェンヌ高原を源にして、オルレアンやトゥールといった重要な都市がそのほとりで発展している。


 その河川の広大なこと。


 そう時間をかけずにジェラールはロワール川に行き会うことができた。


 そこからさらにポリーヌの指示に従って南下してゆく。


 どんどん風景が辺鄙になっていき、徐々に日も落ちてくる。


「ポリーヌ殿、もう日が落ちてしまいます。どこかで休める場所を探します」


「いえ、このまま進んでください。日が落ちてからは、私が先導しますから」


「そんな無茶な」


 気のせいだろうか。


 完全鎧の中で疲弊している様子だったポリーヌの元気が、徐々に戻っている。


 夜に近づく程に。


 やがて日が落ちる。


 その前にジェラールは、草木に埋もれた廃教会を見つけて転がり込むことができた。


「ポリーヌ殿、お加減はいかがですか?」


「大丈夫です。ジェラールさん、日は完全に落ち切りましたか?」


「ええ、もうすっかり暗くなってしまって。松明一本で、灯りは我慢してください」


 埃まみれで、祭壇も朽ち果てた礼拝堂でジェラールはへたり込んでいた。


 傍らには松明。


 そして眼前には分解して揃えられた完全鎧。


 がこん、と。


 完全兜が蓋のように開いた。


 そして中から、青白い顔の少女の姿が顔を出す。


 幼さの抜けきらない、素朴な印象だ。


 だが松明の光に照らされて浮かび上がるその顔の右半分には、火傷の跡が。


「ようやく顔を出す無礼をお許しください。はじめまして、ジェラールさん。ポリーヌと申します」


「いえ、御病気なら仕方ありません。日光に、弱る病気……なのでしょうか?」


「そのようなものですわ。この度は、私の奇病のせいで、申し訳ありません……ああ、森の怪我、こちらなのですね……」


 沈鬱な様子で、ポリーヌがうつむきがちにジェラールの手に視線を向けた。


 マクシミリアンの蛇腹剣を払った手。


 もう血は止まったが、未だ痛々しい。


 それを眺めるポリーヌの呼吸が荒くなりはじめた。


 瞳に熱っぽさが浮き上がり、空腹を我慢するような溜息。


 自然と舌が唇を舐めた。


 ゆっくり、ゆっくりと。


 ポリーヌが姿勢を前傾させていき。


 ジェラールの血の跡にポリーヌが手を伸ばそうとして、


「……ジェラールさん、傷の手当を」


 深呼吸をひとつはさみ、冷静な眼差しに戻って一言を落とす。


 馬に備えられていた荷の中から小瓶を取り出す。


 中の軟膏を清潔な布越しに掬い、ジェラールの傷へと塗布する。


 丁寧に巻いて出来上がりだ。


 その手は優しく穏やかで、しかし冷たかった。


 まるで死人の様に。


「ありがとうございます」


「いえ、元々あのルシファーの使徒を引き寄せたのは、私ですから……」


「その様子でしたね。永遠の乙女というのは、やはりポリーヌ殿のことなのでしょうか?」


「……はい」


「ポリーヌさん、あなたの御病気が関係しているのですね?」


「その、通りです」


 ポリーヌが、唇を引き結ぶ。


 そして、言葉を選んでジェラールを真正面から見つめて問うた。


「ジェラールさん、これから私の病気についてお話をしようと思います。ですが、他言しないとどうか誓ってくださいませんか?」


「神に誓って」


 ジェラールの真摯な言葉に、ポリーヌがうなだれる。


 このような誠実な男を巻き込んでしまった嘆きだ。


 だがその後ろめたさは、同時に心強さでもある。


 ポリーヌは意を決した。


「ジェラールさん、私の病気というのは死してなおこの世に留まるというものなのです」


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