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旅のジェラール  作者: ローリング蕎麦ット
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第百六話


 オーギュスタンの剣腕は、五人と格が違っていた。


 豪壮なる剣が一振りされるたびに、マクシミリアンの従者は二歩下がる。


 五人の従者もルシファー式剣術を納めている様子だ。


 しかしルシファー式剣術も、フランク式剣術も歩を下げてはいけない。


 ルシファー式剣術。


 大悪魔ルシファーの技を再現した剣術だ。


 剣風は、勇猛果敢。


 その神髄は踏み込みの深さにある。


 通常では必死であろう危地にまで踏み込む。


 そこまで踏み込んでおいて、生き延びるに足る者は強き者。


 運命に選ばれた者。


 特別な人間である。


 というのがルシファーの使徒の良く使う論調だ。


 その論理が正しいかはともかく。


 強すぎる踏み込みは相手をおののかせる効果がないでもない。


 そうしてひるませて生んだ隙に活路を拾うところがあった。


 深い踏み込みと共に相乗すれば、攻勢は怒涛の一言。


 勢いに乗ったルシファーの使徒の攻撃は、悪魔教の他派よりも厄介だ。


 故に。


 オーギュスタンのフランク式剣術とはほとんど頭を突き合わせる程の激しさが展開されていた。


 そしてオーギュスタンは、ひるまない。


 オーギュスタンは五人を圧倒し、その尽くを近づけさせないでいた。


 剣がぶつかれば剣を押し返し。


 頭がぶつかれば頭を押し返す。


 フランク式剣術もまた、深い踏み込みを旨とする。


 それをオーギュスタンが制していた。


「オーギュスタン殿、すご……」


 瞠目しながらも、ジェラールが完全鎧を馬にようやっと搭載して固定しきる。


「オーギュスタン殿、これなら一緒に……」


 びしり


 と鋭い音が森に響いた。


 マクシミリアンの右手が、剣を掴んでいた。


 不思議な剣だった。


 剣身が蛇腹の形状で分割した、鞭の様な剣なのである。


 それをしならせて地を打ったらしい。


「何をしている。疾くオーギュスタンの首級を掲げるが良い。報奨は、使い尽くせぬ宝を望みのままぞ。出来ねばその首は、不要よな」


 その言葉で、五人が顔を青くして剣を構えなおす。


 さらにマクシミリアンは続ける。


「楽隊よ、奏でよ。壮麗たる調べで、そこな愚かな騎士と襤褸切れとを歓待してやるが良い」


 遠巻きに、ジェラール達を取り囲んでいた楽隊が一声ラッパを構えた。


 盛大な、音が発射される。


「ぬがっ!?」


 音に叩かれて、ジェラールがのけぞった。


 通当てである。


 音に乗せたオウルが、殴ってくるほどの威力でぶつかってきたのだ。


 第二波を警戒して防御を固めるが、来ない。


 開始と共に一斉に掃射してから、殴りかかるような音圧は止んだ。


 というのも、楽隊がなかなか秀麗な曲を奏で始める。


 マクシミリアンによく似合う、荘厳な曲だ。


 だがジェラールはすぐに悟った。


 曲を奏でながら、楽隊はオウルを練っている。


 強くラッパを吹く時、きっとまたあの強い音圧が襲い掛かってくるはずだ。


 遠くからは音圧。


 近くは五人の従者。


 奇妙なルシファーの使徒達の挟み撃ちに、オーギュスタンはすぐに劣勢に陥った。


 馬を発進させるのも、ジェラールは戸惑う。


 あの音の攻撃で狙われれば、疾駆している馬にしがみつき続けられる自信がなかった。


「がふっ!?」


 また曲が力強い旋律を奏で、ジェラールの腹を打つ。


 オーギュスタンも顔面を強かに打たれて、従者の剣を凌ぐのに紙一重だ。


「ジェラールさん」


 そんな時、完全鎧の中から声。


 ポリーヌ。


「苦戦しているのですね、オーギュスタンさんは」


「は、はい。厄介な陣を敷かれてしまいました。逃げる活路を、どうにか見つけねば……」


「……鎧の腕を、オーギュスタンさんへ届けることはできますか?」


「え、できる……と、思いますが」


「片腕だけでもいいのです。どうか、鎧の腕だけでもオーギュスタンさんへ!」


 言われるまま、ジェラールが完全鎧の腕を取る。


「待て!?」


 オーギュスタンから、悲鳴じみた声が上がる。


 同時、完全鎧の中からも小さな呻き声が。


 その声は、まるで差し込み光に痛みを堪えるような。


「早く完全鎧を閉じろ! 外套でもいい! 早く!」


「早く、オーギュスタンさんへその腕を!」


 オーギュスタンとポリーヌの言葉に、迷うが。


「ええい、もう! お互いがお互いを気遣っているのは分かりますが! もっと事情を分かりやすくしてくださいよ!」


 ジェラールはオーギュスタンへ鉄の腕を投げつけた。


 そしてすぐに、馬に乗せた荷の中から外套を引っ張り出して完全鎧を覆う。


 鉄の腕を受け取ったオーギュスタンは、それを片手で受け取り、振るった。


 剣と鉄の腕の二刀流。


「ぐぅっ!」


 だがそこへ何度目かの、楽隊の音圧。


 オーギュスタンが、肩を殴られた様によろめく。


 剣を、地に突き立てて支えにする。


 従者が剣を振り下ろし、


「……おおお!」


 オーギュスタンが鉄の腕を右手にはめ込んで、五指を開く。


 がぎん


 と、その剣を掴んで、


「おらぁっ!」


 剣の持ち主の腹部へ痛烈な蹴り。


 従者を吹き飛ばせば、その手の中に剣が残った。


 そして、切っ先を握り込んで構えたではないか。


 手甲による掌の保護によりできる剣技。


 殺撃である。


「ハッ!」


 それで従者達の剣を打てば、なんと半ばで砕いてしまったではないか。


 つまり柄で殴り掛かっている形だが、剣を打撃武器として機能させている闘法だ。


 オーギュスタンが奪った剣は十字形状。


 柄で殴り掛かれば、即ちツルハシの様な威力が出る。


 それで従者達の剣をことごとく破壊しきれば、地には半ばで折れた刃が四枚。


 それを蹴り上げて剣で打ち払う。


 四条の刃は、それぞれ楽隊の者達に飛来する。


 それをある者は避け、ある者はラッパで受けるが、


「ぎゃっ!?」


 その隙にオーギュスタンが投げつけた剣が、ひとりの首に突き刺さる。


「今だ、ジェラール殿!」


 そこにできた、楽隊の穴へとジェラールは馬を走らせた。



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