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きょうかと出会ったのは、あの『はずれ』が消滅した場所に広がっていた黒の中だった。
破壊竜に二度も暮らしてた世界をぶっ壊されちまった俺は、二つ目の世界で仲間と魔素を練って作り上げた精霊たちと共に黒の中を漂いながら、全てを諦めかけていた。
持っていた僅かな食いもんも尽き、お手上げ状態だったからな。その黒の中じゃきょうかの作った倉庫的な空間と違って自由に移動できねぇんだ。体は動かせるんだが、その場から動けないって言うか。
ほーんと、あん時は焦ったね。どうすりゃいいんだこれ!?ってね。一回目崩壊の時は気ぃ失ってる間に運よくすぐ近くの世界に入り込めたみたいだったもんだから、初めての感覚に余計に混乱しちまった。
後できょうかから聞いた話だが、あの黒の中じゃ破壊竜か創造竜ぐらいしか自由に動けねぇらしい。そりゃ俺にはどうしようもなかった訳だ。
んで、いつもに比べてやけに魔素を欲しがる精霊たちに魔素与えながらこのまま死んじまうのかーって思いながら腹を鳴らした時、すっと謎の塊が目の前に出てきたんだわ。
「食べる?」
突然現れた謎の物体と、誰もいないのに聞こえた声。心底震えあがったのを覚えている。なんなら絶叫したね。なんせ俺は霊だとか言うのが大嫌いなんだ。怪談聞いちまった日にゃ風呂にも便所にも一人で行けなくなっちまう。今までそれを何度弄られてきたことやら。
それにほら、ああいうのには大体白い着物の女が出てくるもんだろ?突然なんか出てくるわ女の声が聞こえるわで、「これは霊だ!ついに俺を迎えに来たのかもしれない!」ってなって恐怖で必死に暴れたんだわ。
だけど、なんか凄い力で押さえつけられて動けなくなった上に、強引にあの謎の塊を口に突っ込まれて混乱してた俺はそれを食っちまった。腹が減ってたせいか味がしないそれが、不覚にも少しだけ、ほんの少しだけ美味く感じちまったんだよなぁ……。
「あ、ありがとう?」
腹が少し満たされたお陰で少し落ち着いた俺は見えない何かに感謝した。
「……どういたしまして?そ、その……脅かしてごめん」
落ち込んでいるような声。そして沈黙。気まずい時間がそのまましばらく続いた。俺は何とかその空気を紛らわしたくて尋ねたんだっけな。「お前さん……幽霊か?」ってな。
「幽霊じゃないけど……いい見た目してないよ?今のあたし」
それを聞いた俺は単に顔や体型なんかを気にしてるのかと思って気にしないって言っちまったけど、きょうかには悪いことをしちまったって、今でも思ってる。もしかしたら姿をあの空間ぐらいでしか出さないのは、この時のせいかもしれないからな。
現れたのは、人族に破壊竜の姿を混ぜたようなきょうか。俺は想像してなかった二度も世界を壊しやがったあいつらの姿を持つ彼女を見て、つい持ってた刃物を向けちまった。
「……まあ、そうなるよね。知ってたけど」
また消えるその姿。また無音に戻る。
少し間を置いて警戒心むき出しの俺にきょうかは震える声で「聞いて」って言ったんだ。あまりにも声が震えてるもんだから、俺も聞くだけ聞いてみるかって思った訳だ。
そしてきょうかは語る。破壊竜に友人を殺され、自分は呪いをかけられあのような姿になっちまったこと。住処を求め別の世界に入ってみるが、その世界を守ってた創造竜に呪いのせいで破壊竜と見なされ攻撃を受けて必死で逃げ出したこと。人の姿に破壊竜の姿を持つもんだから破壊竜にも遊びでぼこぼこにされたこと。運よく創造竜のいない世界に辿り着いたのに、その姿を見た人々に怖がられ石を投げられたこと。そして俺に出会うまで独りで必死に生き残ってきたこと。
泣きながらも必死に語られたそれらに嘘が混じっているようには思えなかった。「もう独りで居たくない」って言葉は彼女の本音だと感じられた。
だからこそ俺は困っちまった。自分の所為で相手が泣いちまった。ぱっと見ただけだが、俺と同じぐらいの歳に見えた。それも女の子。しかも渋ってたのに俺の言葉を聞いて信じて姿を見せてくれた彼女に、俺は敵意を向けちまったんだ。もう後悔で押しつぶされちまいそうだった。
精霊たちも警戒を解いて申し訳なさそうに『謝罪』の念を送っている。彼女には届いていないようだったが、それに背を押され俺も恐る恐る謝罪の言葉と共に土下座をした。
「……大丈夫。怖がられるの慣れてるし……」
全然大丈夫そうにない。一向に泣き止む気配の無い彼女をこれ以上傷つけないよう問いかける。
「その、呪いは解けるのか?」
「……わかんない。呪い掛けてきた奴殺せば解けるかもだけど、解けなかったらどうしよ……」
泣き止まないどころか火に油を注いじまったようだ。より酷くなった泣き声にどうしようもなくなった俺は咄嗟にこう言った。「飯の礼と泣かせちまったお詫びだ。手伝えることならなんでも言ってくれ」って。
途端、泣き止むきょうか。
「なん、でも?今、何でもって、言った……よね?」
ほんとあん時は急に空気が変わった気がして冷汗が止まらなかったなぁ。まずいこと言っちまった?って。まさか、殺される?って。
慌ててる俺に、きょうかはこう言った。
「なら、あたしと一緒に平和に暮らせる世界を作って!そして、あいつ等を……破壊竜共をいっぱいぶっ殺そ!どうかよろしくね、相棒」
いつの間にかまた姿を現し、俺に手を差し出すきょうか。また拒否されることに怯えてか震えるその手を、俺はとった。
彼女の手をとり、彼女に名前を付けたその日からきょうかとの生活が始まった。彼女の作り出した倉庫的な空間をとりあえずの拠点にして、世界を維持するための魔法の使い方だとか破壊竜との戦い方だとか色んなことを叩き込まれ、最初のうちはほんとに頭が爆発しそうだった。……ちなみに、精霊たちはすぐ飽きてその辺で勝手に遊んでた。
詰め込めるだけ詰め込んだ後は『ぱわぁれべりんぐ』なるもので『れべる』というものを上げていった。きょうかが何処かの世界を壊そうとしてた破壊竜を見つけ攻撃し、止めを刺す前に石ころをぶつけるだけの簡単な作業だ。ちなみに、れべるってのは強さのことらしい。
今では精霊たちに力を借りれば弱い破壊竜なら簡単に倒せるぐらいになった。……本当は自分の力だけで倒してみたいが、俺は『無』属性の魔素しか持ってないから攻撃できないんだと。誰かのサポートをしてじゃなきゃ戦えない悲しい存在だ。
きょうかによると、破壊竜に有効な攻撃手段は魔法か竜による物理攻撃しかないらしい。確かに持ってた刃物は破壊竜の鱗の固さに負けて壊れちまったしなぁ。精霊たちは戦力になったってのに、俺は……悲しいなぁ。
しかし、無属性のみ持ちってのは逆に珍しく、重要な存在らしい。普通あの黒の中では『世界』の中に入ってない全てのもんが時を止め、最後には崩れ去っちまうらしい。が、無属性の魔素は世界が存在維持するために必要な魔素であり、無属性のみ持ちの俺は無事で居られたんだと。
本来生き物は生まれた時点で体にある程度魔素が練りこまれ、世界の中の魔素を食事とかによって更に体内へ溜め込み、死んだときにまた世界に返すっていう仕組みになってるらしいが、黒いあそこにいるとその魔素が抜け出ていっちまって存在を維持できなくなり、最後に崩れちまうそうだ。だが、無属性のみの奴は魔素が体から抜け出るのを無属性の魔素が止めてくれるから無事でいられるんだとよ。
簡単に言えば、世界が維持されてるのと同じ状態になるらしい。……ちなみに、精霊たちは俺の魔素を頻繁に摂ることで生き残れたんだろうってさ。道理でやたら魔素を欲しがってた訳だ。
そして、無属性の魔素は世界を壊されにくくできたり、壊された世界同士を繋ぎ合わせたりすることなんかもできるそうだ。つまり、もし故郷の世界や二つ目の世界の欠片を運よくきょうかが拾っていれば、懐かしいあの地にまた足をつけることができるかもしれない。……また仲間達に出会えるかもしれない!
戦闘はできないが、大事な場所を守ることはできる。消えゆくはずだった存在を救える。それが俺の持つ無属性の魔素の力だ。
世界を繋ぎ合わせ強化する俺と、破壊竜をぶち殺せる強さを持ったきょうか(と精霊たち)。二人ならなんとかやっていけそう……な気がする。これからもよろしく、相棒。
……ただ、その立派な尻尾で俺の尻をぶっ叩くのだけはできるだけやめてくれ。