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「……ここも駄目!あーもう!協力する気もない奴ばっかの世界なんて、要らない!」
聞きなれつつある斬撃音。また繋げたばかりの『世界』が相棒によって切り離され、色を失っていく。
「あー……またか」
もはや見慣れた光景になりつつあるそれ。
「これで六個目。お前さんはやらんからわからんかも知れんが、『世界を繋ぐ』のって大変なんだぞ?少しぐらいは妥協してもいいんじゃ……」
「嫌!」
即答である。
「第一、あんな『自分んとこの一族が最高!』みたいな奴らとどうやって仲良くなるってのよ!こっちがせっかく助けてやったってのに、あいつら下僕になれとか言ってきたじゃない!ふざけんな!」
相棒は苛立ちを隠せないようで、既に灰色になっちまっている六個目の『はずれ』へと追い打ちの破壊魔法が放たれる。瞬間、そいつは完全に消え去っちまって、さっきまでそれの存在していた場所は、光をも吸い込む黒に包まれた。
……あーあ。止めを刺さなくてもあと少しで消滅する世界だったってのに。毎回毎回魔素がもったいねぇんだよなぁ。ほんと。
ほら、俺の周りにいる魔素が餌の精霊たちも、皆『呆れ』の感情を訴えてきてるし。これ、もし『破壊』じゃなくこいつら好みの魔素無駄にしてたら、だいぶ怒られてたんじゃねぇかな。こいつらほわほわしてちっこい弱そうななりしてるが、怒らせた奴の家滅茶苦茶にするぐらいの力は持ってるし……。
破壊属性は一番人気ない魔素だからまだよかったっちゃよかった。相棒は強いが、流石にこいつら全部を抑えきれんだろうからなぁ。最悪、拠点を滅茶苦茶にされちまったりしてたかもしれんな。
……まぁ、確かに今回の『はずれ』の奴らは、今までの『はずれ』の住人達以上にうっとおしい奴らで俺も苛立たされたが、わざわざ魔素を無駄にする必要はないと思う。どうせ既に灰色になりかけてた世界だ。もって後一日もなかっただろうに……。
ほーんと、俺に散々魔素は大事だって言ってたやつ本人が何やってんだか。
しっかし、六回目にもなると世界と共に同じ意思疎通できる生き物……それも同じ人族が消えていったってのに、悲しいかな。何も感じられない。只々「ああ、またはずれか」って思うだけ。
……もう慣れちまった。今まで『はずれ』以外の世界が壊れていくのも結構見て来たし、なんなら自分でも二回巻き込まれたことがある。故郷の奴らや世話になった奴ら、仲良くやってた奴らも、みーんな世界の崩壊に巻き込まれちまって、運良く生き残ったのは結局俺と精霊たちだけ。
もし、俺があの頃力の使い方を知ってたら誰か一人でも救えてたかもしれねぇのにって、どうしても考えちまう。今でも「こんな時あいつが生きてたらよかったのに」って、何かに困ったりするたびに頭の中に浮かんできちまうんだ。
……もしかしたら、今まで散々大事なもん失くしてきたからこそ特に思い入れのない『はずれ』の奴らには何も感じないようになったのかもしれんなぁ。
まー、元々俺らには協力できないような見知らぬ奴らを生かしておく余裕なんてないが。このまま『はずれ』を引き続ければ、いずれ俺も死ぬことになるし……来世での幸福ぐらいは祈ってるから、許してくれよな。
「……はい、これ食べてて。次の世界選んでくるから」
ぼーっと考え事してた俺の目の前にどこからともなく出てきた宙に浮く謎の塊。不思議ではあるがもはや見慣れた光景になったそれ。姿を消している相棒が差し出しているであろうそれを、いつも通り受け取る。
「はあ。またこれか……。いい加減この謎の塊だけ食べる生活にも飽きたなぁ」
見飽きたそれにため息が出てしまうのも仕方あるまい。しかし、これしかここには食いものがないんだからどうしようもない。
諦めて俺には読めん文字らしきもんが描かれたそれの袋を破る。そして、中の薄い板が重なっているようなそれを口に入れる。
……うん。相変わらず、味がしない。美味しくない。これしか食いものがないから食うしかないが、とにかく味がしない。その上水分は持ってかれるんだから非常に面倒だ。
えい……なんだったっけか?名前は忘れちまったが、相棒に出会ってから、ずっとこれと水しか口にしてない。
相棒にこれを食べさせられ続けて結構経ってるってのに、保管庫にはまだまだ山積み……これが地獄ってやつか?
「し、仕方ないじゃない!それしか買い込んでなかったんだもん!それ一つで一食分の栄養全部摂れるから非常食に丁度良かったし……。まあ、味がしなくて美味しくないのはわかるし、他のは私と『あの子』が全部食べちゃったから……って、何回も言うけど、え・い・よ・う・しょ・く!いい加減覚えなさいよ!」
避けるのも困難な『目に見えない何か』による容赦ない一撃が俺の尻を襲う。いってえ!
……しっかし、この痛みにも慣れつつあるのが悲しいところ。短気なのはいい加減理解したから、俺の尻に当たるのはやめて欲しいもんだ。ほんと、俺の尻に何の恨みがあるんだ……。尻が四つに割れる日もそう遠くないかもなぁ。いや、だからといって他のとこにされても困るが。
何とか落とさなかったそれの残りを一気に口に押し込む。そして、精霊が魔法で出してくれた水を飲み、なんとか喉の奥へ流し込む。いつもありがとうな。
にしても、やっぱり『謎の塊』で十分だろこれ。例え栄養があっても、こんなの人が食べるもんじゃない。ずっと食べてたら体がおかしくなりそうだ。
……まあ、口に出せばまたしばかれるのは嫌になるほど体で理解させられているので、多分もう口には出さないが。多分。
「はあ、何時になったら繋いでてもいいやって世界に出会えるのかしら……」
俺から食べ終わった栄養なんたらの袋を受け取りつつ呟く相棒。……せっかく俺が繋げた世界を、片っ端から全部ぶっ壊してる奴が何を言ってるんだ、とは思ったが口には出さないでおく。俺の尻のために。
……とはいえ、このままだとまたあの謎の塊と水だけの生活が続くだけだ。相棒や精霊たちは保存されてる『魔素』や俺の出した魔法食えば生きていけるけど、俺だけはあれを食わねばならん。
嗚呼。死んだ母ちゃんの作った何故か焦げた味のする味噌汁が懐かしい……。せめてあの『はずれ』、食料確保してから壊してくれたらなぁ。
何か良い案は無いものか。食べ物が得られそうなところ、かぁ……あ。
「なあ、普通の森とかに繋ぐのは駄目なのか?それも人族とか獣人族とかの生き物がいねぇとこ。普通の動物しかいねぇとこ。それなら今までの奴らみたいなのに苛立たされることはないだろうし、食べ物の問題も解決できるかもしれない。……どうだ?」
今までの世界は全て我ながらいい案だと思うんだが、返事がない。姿を消しているから、どんな顔をしているか見当もつかない。
「……そ」
咄嗟に尻をかばう。悲しいかな、痛みを教え込まれてしまった我が体。
「それよー!それ、すっごくいいじゃない!あたしったら、なんでそんな簡単なこと今まで思いつかなかったのかしら!」
た、助かったのか?凄く喜んでる声がする……あ、なんか柔らかいものが腕に当たって……、ん?腕、掴まれてる?何をす
「早速良い世界を選ぶわよ!善は急げ!……ほら、早く―!」
「ちょ、待てって……おいー!」
急に目の前に開いた空間へ投げ込まれた。頼むから普通に入らせてくれ!
固い地面に叩きつけられる。なんてことはなく、体は不思議な浮遊感に包まれた。……何度来てもこの感じには慣れない。
ここは相棒の魔法によって作られた『らのべやげーむによく出るあいてむぼっくす」的な空間、らしい。俺にはその言葉の意味がさっぱり分からんが、どこにでも持っていける倉庫みてぇなもんのことだろうと思っている。実際この空間はそんな感じで使われているしな。……もの凄く散らかっているが。
この空間には、『破壊竜』に壊された世界の欠片が相棒によって消えないように施され、乱雑に詰め込まれる。空を閉じ込めたような欠片や、岩ばかりが見える欠片、回収が遅かったのかかなり灰色になってしまっている欠片、人や犬なんかの動物が入ってる欠片なんかもある。
だが、どの欠片も中の時が止まってしまっていて、中の人だとかが不自然な姿で動きを止めている。……俺も何かがずれてたら、彼らの仲間入りもしくは『はずれ』みたいに世界ごと存在消滅してたんだよなぁ。その点は相棒に感謝してもしきれない。
この欠片たち、一見大きさはどれも同じようにみえるが相棒が魔法で小さく固めているだけで、山が二つ入るようなのもある。困ったことに、どのくらいの大きさの世界かは魔法を解除してみねぇと分からねぇんだよなぁ。
例えば四個目の『はずれ』。あまりに馬鹿でかすぎて、世界同士の縫合にかなり時間がかかっちまった。俺としては二個目ぐらい小さいと仕事が非常に楽だが、その分あんまし中身に期待できねぇし……何事も、ほどほどが一番ってことかねぇ。
相棒は整理整頓が大の苦手で、新しい欠片を見つけてはここにぶち込むものだから、どこにどんな欠片があるか自分でも忘れてしまっていて、いつも悩みながら二人(と精霊たち)で選んでる。
俺の故郷のある世界の欠片もここにあって欲しい、と密かに願ってるんだが……この状態だと、俺が生きている間に見つかることはないだろうなぁ。
……とまあ、色々考えつつ何とか体制を整えようとしてる俺の横を通っていく、精霊たちと誰か。
「まだ慣れないの?なっさけないなー!」
声の方へ目線を動かす。その先にいるのは精霊たちに囲まれ、小憎たらしい顔で笑う俺と同じ年ぐらいの女の子。雲のような白い『わんぴーす』とやらで身を包み、俺の世界の風物詩『きょうかの花』色の長い髪を揺らす、血のように赤い色の目をした女の子。
しかし、その頭には昔話に出てくる鬼なんかより立派な黒い角が二本も生えていて、背中からはどこか蝙蝠のそれに似ているようなこれまた黒くてでかい翼が。鱗がびっしりと生えた人のそれではない足と、わんぴーすから覗く尻尾。他にも顔や腕、首などにも所々鱗が生えている。
そんな俺と彼女自身が憎む破壊竜の姿をその身に持つ女の子。ある破壊竜によって左手の甲に禍々しい模様の『呪い』を刻まれた(らしい)女の子。この空間の中だけで姿を現す彼女こそが俺の相棒、『きょうか』だ。
ちなみに、彼女の名前は俺がつけた。どうも名前を憶えていないらしく、呼ぶのに困るだろうからと頼まれちまった。
彼女、俺と同じぐらいに見えるけど、なんと二百年は生きているらしく、長い間誰にも呼ばれなかったもんだから忘れてしまったそうだ。我ながらかなり安直に名付けてしまったと思うが、本人には喜ばれたので、まあいいかとそのまま『きょうか』で定着して、今に至る。
「これとかどうー?……って、なにぼーっとしてるの!?早くこっちに来て『ひろと』!」
おっと、名前を呼ばれている。……また尻をしばかれる前に行かないと、な。