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5-1. 王子の友人

 他の星族に外出先を偽り、門の下階へと降りてきた。オレもカシェルもイリースという国がどこにあるのかを知らないので、地図を閲覧させてもらおうと門の兵士に願い出た。書庫にあるものを閲覧してくれと言われたので、場所を聞きながら向かう。


 書庫に辿り着き、扉を開けると、そこには見たことのある人物が居た。


「……王子様だ」


 カシェルが呟くのが聞こえたのか、ディーン第一王子がオレたちに気付き、こちらに近づいてきた。オレとカシェルは、その場で深々と礼をした。


「ラスイル殿、良かった……! 貴殿に面会を願い出たのだが、星族たちに追い返されたところだったのだ。少し時間を割いては貰えぬだろうか」


 オレは頭を上げると、王子を見据えた。結界が消えた国のことは、王子も知っているはずだ。そのことで、王族も何か勘付いたのかもしれない。


「……私に何か?」

「こんなところでは何なので、場所を変えましょう。貴女(あなた)も、ご一緒に」


 王子はカシェルを見て、驚くほど爽やかに微笑んだ。オレたちは断ることも出来ずに言われるまま、書庫を出ていく王子の後に続いた。


 王子は門の下階にある小部屋に入ると、オレたちを招き入れた。中にいた兵士を全て追い出すと、王子は椅子に座る。


「こんな部屋で申し訳ないが、貴殿らも掛けてくれ」

「恐縮です」

「感謝します」


 オレとカシェルは、礼をしてから質素な椅子と同じような木でできたテーブルを挟んで、王子と向かい合うように並んで座った。木が軋み、ぎぃと音がした。


「うむ……何から……話してよいものか……」


 王子は逡巡(しゅんじゅん)している。この国に来たばかりの時とは少し、様子が違って見える。


「……結界のことですか?」


 突然カシェルが口を開くので、オレは焦ってカシェルを制止するように手を伸ばした。カシェルに任せていては、余計なことまで言いかねない。任せろと言わんばかりに頷いて見せると、カシェルもコクンと小さく頷いた。王子はオレたちをじっと見つめてから、視線を落とす。


「いや……今から話すことは、王子としてではなく"友人"として話を聞いてもらいたい」

「友人……?」

「理解していただけるだろうか? ここで私は友に相談をする。ラスイル殿は私の友として、私の話を聞く、ということだ」

「……かしこまりました。ディーン王子」

「あぁ……だからその……王子ではない。ディーンと呼んでくれ。私にもラスイルと呼ばせて欲しい。堅苦しい言葉もやめてくれ。友人なのだから」


 オレもカシェルも意味が解らずに顔を見合わせた。


 王子はオレたちの様子を伺うように、オレとカシェルを交互に見つめていた。こんな強制的な友人など要らぬ、と思ったが、王子の面持ちは真剣なので『お友達ごっこ』に付き合うしかなさそうだ。すると、カシェルが王子に向けて、スッと手を差し出した。


「ディーン、私の名はカシェル。今日からお友達になりましょう」


 カシェルはにっこり笑って王子を見ている。カシェルは誰に対しても敵対心というものを持たない。それがカシェルの良いところでもあるけれど、オレは横で冷や汗を拭わなくてはならない。さすがに王子も意外だったのか、少し驚いた顔をしたものの、再び爽やかに微笑んで、カシェルと握手をした。


「よろしく、カシェル!」


 カシェルから手を離した王子はそのままオレに手を差し出した。カシェルに倣って王子と握手をする。王子の手は、オレの手よりもゴツゴツして大きかった。それに、余程嬉しかったのか強く握ったまま、ぶんぶんと手を振るので少し痛かった。


「よろしく、ラスイル」

「……よろしく」


 王子は、嬉しそうに微笑んで手を戻す。もしかしたら、王子という立場上、友人と呼べるような者がいないのかもしれない。だからといって何故、星族であるオレやカシェルなのだろう。


 王族と星族とは、どこの国でもその社会的地位から、良い関係であるとは言い難い。それにオレとカシェルが王子に会うのは二度目だ。何がそう思わせるのか全く分からないので、何か策があるのではないかと疑ってしまう。


 王子はそんな思考をめぐらせるオレのことなど気に止める様子もなく、オレたちの顔を交互に見た後、小さく溜息を吐いてから何かを取り出した。


「……この肖像画を見てくれないか。ここに描かれているのは、私の弟である第二王子のルーセスだ」


 なんだってこんな時に弟の肖像画なんて見せられなければいけないんだ……とは思ったけれど、オレとカシェルは何も言わずに頷いた。ディーン王子はオレたちの様子をうかがうように、その肖像画をそっとテーブルの上に置いた。


「あっ、この人は……!」

「カシェル? なっ、何か知っているのか?」

「あ……いえ、その……」


 カシェルが困ったようにオレを見ているのが分かったけれど、オレはその肖像画から目が離せなかった。そこに描かれていたのは、結界に触れたときに見えた"身形の良い男"……魔法の使えない"殊異"だった。 


 オレは肖像画からディーン王子へと視線を移す。慎重に言葉を選ぶ。


「……先ずは、ディーンの要件を教えてくれないか」


 オレの顔をじっと見ていたディーン王子は頷くと、話を始めた。


「ルーセスは今、この国にはいない。半年くらい前に友人を探しに行くと、付き人の音楽家と共に城を出て行った。私の父でもある国王は、それを待っていたようにルーセスを国から追放したが、いざ帰らぬとなったら探し始めた。……その意味がわからない。国王にそれを問いただしても、答えてはくれぬ。ルーセスは魔法が使えぬので、音楽家と共に居るにしても、城の外で長く生きていけるとは思えないのだ」

「……それで、どこかで彼を見なかったかと聞きたい……ということか?」


 ディーン王子はすぐに答えず、考えるような仕草を見せた。


「……それもある。だが、私はルーセスのことを知りたいのだ。ルーセスは全く魔法を使えないし、剣術こそ人を上回る強さだが、それ以外に特別な能力もない。だが……何か、それ以外に私の知らない特別な理由があるのではないかと思うのだ」

「特別な理由……」


 殊異である、と伝えることは、星族の秘密を明かすことになる。オレは何と言ったらいいのか分からず黙っていた。オレが何も言わないことが分かったのか、ディーン王子は力なく視線を落とした。


 この王子は、単純に兄として弟のことを心配しているようだ。それにも関わらず、何も知らされない不安を募らせて、相当思い詰めている。それで、星族であるオレたちにまで話を持ち出した、ということだろう。重たそうに上げた憂い顔で、今度はカシェルを見つめた。


「それに、カシェル……貴女はルーセスに似ている。銀の髪と翠色の瞳、その人を惹きつける魅力。ルーセスを慕う者は多く、兵士たちは弟に従順だった。だから今、兵士たちは弟を追放した我々王族に不信感を抱いている……」


 カシェルは無表情のまま、じっとディーン王子を見つめていた。この王子はやはり、殊異を知らないのだろう。もっとも……星族以外で殊異を知る人物が居るとしたら、それはそれで問題なのだが。


「やはり第二王子様は、私と同じ"殊異(しゅい)"なのですね」

殊異(しゅい)……?」

「カシェル! その話は……!」


 ――思った通りだ。カシェルは余計なことまで話してしまう……。星族のことを星族以外に話すことは基本、禁じられている。ましてや、相手は王族だというのに。


 焦るオレを見て、今度はカシェルがオレを制止するように手を伸ばしてから、口元で人差し指を立てて見せる。


「ラスイル、お友達が困ってるのに何を言ってるの?」

「いや……その……」


 焦るオレを笑顔で制したカシェルは、ディーン王子に視線を戻した。


「ね、ディーン。ここでの話は、第一王子様(・・・・・)には内緒よ?」

「――なっ……? わ、わかった、内緒だな……内緒だ!」


 ……やられた。完全にこの場はカシェル色に染められてしまった。

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