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チート勇者の裏側で ~君の為の英雄譚~  作者: たなぼたもち
本編【君の為の英雄譚】
6/13

君の英雄③

 今ので十数秒稼げただろうか? でかい事吹いといて最初の作戦が他の二人頼りというのは非常に情けない限りではあるが。


 しかしなんとか作戦は成功したらしい。ドラゴンはこっちに完全に標的を定めたようだ。


 ある意味ドラゴンの頭の良さに賭けた作戦だった。これが何も考えないただの獣の類いだったら、こっちには目もくれず軍隊の方へ行ってジエンドである。それならば元々こんな状況にはなってないんだけど。


 こいつに警戒心があって良かった。


 迂闊に動けば何かをする威嚇行為にも似た嫌がらせ行為。動いたら何かしてくると思わせるだけで相手の行動を抑制する。


 突然異世界生活がスタートした暗い森の中で狼っぽい魔物と一対一になった時、死ぬ気で大声出しながら突進していったら案外ビビって逃げていった事が若干のヒントになっている。知能のあるやつほど案外慎重で臆病なのだ。まあ、他の仲間呼ばれていたりしたら初日でそれこそジエンドだったけどね。ほんと紙一重で生きてきたもんだ。


 その警戒心が働いてか相手も迂闊に飛び込んで来ない。ドラゴンとの距離は三十メートル程。一瞬で間を詰められる距離ではあるが離れているのはありがたい。……膠着状態。予想以上の成果である。


「……上手くいきましたね。凄いです」

「たまたま。しかもこれが一分保つかどうかもわからんし。クラリス、あと何回位魔法撃てそうだ?」

 

 ドラゴンへの目線は絶対に逸らさず、背中におぶったクラリスに確認を取る。クラリスは冷静に自分の状態を告げる。


「先ほどから撃っている位の時間の長さならあと撃てて二発、回復薬をもう一本飲めばもう二発か、二発分使って人一人分の大きさを守れる結界が一重だけ張れるくらいです……すいません、おそらく本当に体力的にこれが限度です」

「……わかった。じゃあ、最後の作戦。薬飲みながら聞いてくれ」

「最後なんですか?」

「おっさんにこれ以上は無理っぽい。あがくけど、強がりは言いません。で相談なんだが……」


 ……


 …


「可能ですが、それは危険です! ハルイチさんが持ちません!」

「まあ、結局一か八かだけど時間を稼ぐにはこれしか思いつかん。それにあんたじゃ確実に持たんだろ。だから頼むわ」

「…」


 クラリスは押し黙っている。きっと自分以外の人をこれ以上危険に晒してしまう事が悔しいのだろう。


「時間が無いからタイミング来たら勝手に決行する体で動くけど。協力してくれなかったら俺が死ぬだけだな」

「ハルイチさんはそうやって、あの時みたいに私を助けてくれようとするんですね」

「なんの話だよ。お前とは今日が初対面だぞ?」


 突然クラリスが変な事を言い出すので、俺は眉間に皺を寄せる。するとクラリスはどこか寂しそうに微笑んだ。


「……作戦、乗りました。その代わり私もおぶったままにしてください。そちらの方が精度が高いし、私だけ安全を確保とか絶対に嫌ですから」

「強情だな」

「ハルイチさん」

「あん?」

「ハルイチさんは、絶対に私が守ります」

「いや、今日はずっと守られてばっかだよ俺は……来るぞ! 魔法の見極めは任せた!」


 しびれを切らしたドラゴンが、ついにこの膠着状態を破りに来た。翼は使わず地につけた足に力を込め、思いっきり前に飛びかかる体勢を作る。そのタイミングでクラリスが重力魔法を発動する。残り三発。


「グラビドン!!」


 しかし今度はドラゴンはそれをものともしない。魔法を受けながらもお構いなしにこっちに飛び込んできた。一気に距離が詰まる。


「……グラビドン!!」


 すかさずクラリスは二発目を放つ。一発目の魔法で少し勢いを失っていたからかドラゴンは今度こそ地に伏せた。足場が柔らかく踏ん張りが効かない地形であることも勢いが出なかった事に影響しているのだろう。残り二発。俺達はすぐさま距離を取る。


 少し前には再び地を這いつくばり、怒りが頂点に達しているクソトカゲが一匹。


 さあ、ここからは運試しだ。さっきからそんな綱渡りみたいな作戦しか思い付かないけれど、庶民が一発逆転を目指さなければならんのだから仕方があるまい。俺は悪くないんだぜ。

 

 そう覚悟を決めた俺は重力魔法の効果が切れた瞬間、持っていた最後の魔法回復薬をドラゴンの口の中に思いっきり放り込んでやった。


 回復するドラゴンの魔力。流石に本人も何が起こったかわからず少し混乱しているように見える。


 ――ここからは仮定の話。


 今までこのドラゴンは飛ぼうとしたり、俺たちを攻撃しようとしたりするたびに妨害されてきた。それはこのドラゴンが最初、分厚い二重結界を破る為に魔法を使用し結果魔力が足りなくなり、言うなれば消去法で物理的な攻撃手段に出てきた訳だ。

 

 ドラゴンは一番最初は姿を消しながらこちらに近づいて来た。そして結界を破る為に爆発系統の魔法を使用している。だから多分だけどこいつは、せっかく学習したのだから基本的には魔法を使いたがっているのだと思う。


 そこでだ。

 

 もしこいつの立場ならば、散々物理的な行動を妨害してきた俺達を葬り去りたい時、急に魔力が回復して魔法が使える状況になったら、一体俺たちを殺す為にどんな攻撃手段を使って来るだろう。


 ……もし俺の仮説が正しいのならば。


「魔力の流れが変わりました! ドラゴンの魔法が発動します!」


 ドラゴンの魔法の発動の見極めをお願いしていたクラリスが叫ぶ。……ビンゴだ。まったく、今日はついてるのかついてないのかよくわからん一日だ。この戦いが終わったら俺、誰になんと言われようが代休をとってお仕事休むんだ。それくらい許されるよな?


「あとは私が合図を出したら、作戦通りに!」

「おうよ! 任せとけ!」


 クラリスをおぶったまま、俺は二人でタイミングを図る。そしてドラゴンはその待ちに待った魔法を発動せんと俺たちを睨み付けた。超怖い。けどやるしかないんだぜ!


 そして……


「行きます!」

「おっしゃあ!」


 発動の瞬間、俺は今日更新したばかりの春一史上最高速度を更に更新し、ドラゴンとの距離を一気に詰める。ほぼ目の前だ。つまりこいつの爆発魔法でこいつも巻き込まれる距離に入る。


 このままだと俺達は即死だ。だけどこっちには一回だけ使える盾がある。


 爆発が起きる瞬間ある仕掛けを施し、クラリスが最後の結界魔法を発動させる。大きさは人一人分。けれどクラリスは俺がおぶっているから、一人分の大きさがあれば充分だ。


 何度もこいつの魔法を防いだクラリスの結界。俺達はその丈夫さに賭けた。きっと耐え抜いてくれるはずだ。


 そしてドラゴンのほぼゼロ距離で爆発が起こる。凄まじい衝撃が結界の中にまで襲ってくる。


 意識が遠退く。それでも歯を食い縛る。ここで根性見せずにどこでみせんだよ……!!


 目の前には爆発と共に、ドラゴンが悲痛な声をあげている。

 

 ……少しは喰らったかよ、この化け物め。

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