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チート勇者の裏側で ~君の為の英雄譚~  作者: たなぼたもち
本編【君の為の英雄譚】
3/13

その時へ

少し勢いで書いてる部分あるので、矛盾点多々あると思います。もし読んで頂いた上で、ご指摘等あれば宜しくお願い致します。

とりあえずは勢いで完結目指します。

 ※ ※ ※



 魔物の群れが押し迫ってくる。


 男一人の力ではどうすることも出来なかった。


 己にできるのは、燃え盛る炎の中からこの小さな手を引いてあげることだけだと言うことを痛感していた。


 なんで自分には何の力も無いのだろう。ならばなぜ自分にはここにいるのだろう。


 男はもう、自分に何か特別なことができるとは思っていなかった。思うことをやめた。


 ※ ※ ※


 

 何故あの時深く考えなかったのだろうか。


 一匹のドラゴンを押さえる結界が破られた。つまり結界の内側からその一匹のドラゴン以上の力がかかったと言うこと。


結界が破られたのはアクシデントなんかじゃ無く、内側から正攻法でこじ開けられたと言う事だったのだ。


「二匹目のドラゴン……! 長年の戦いの記録には残されていなかったし、事前の調査ではその存在は確認されていなかったはず。いやそれよりもなんでここまで何の気配も無く陣の後ろに回り込めたの……まさか!?」


 クラリスは破られた二重結界の最後の一枚を破られまいと必死に魔力を込める。しかしドラゴン相手に一人ではどこまで持つかわからない。苦悶の表情が現在の状況を物語っている。戦いにおいて拠点の背後を取られると言うことは致命的な打撃になりうる。


 ポンドル後方部隊は混乱していた。突然現れたドラゴンに怯え逃げ惑っている。……無理もない、かなりヤバイ状況だ。このまま後方部隊が破られ、戦場のど真ん中にもう一匹のドラゴンと言うジョーカーが放たれたら、部隊隊列や各隊の作戦遂行どころじゃ無くなる。あくまで冷静にこの事態に対処しなければ。


 「ハルイチ! なんだよこの状況は!?」


 まだ完全に状況が飲み込めていないアルベルトがこちらに駆け寄り困惑の表情で叫ぶ。


「アルベルト! 陣の後ろにもう一匹のドラゴンが現れやがった」

「本当かよ!? さっきまであんなに楽勝な雰囲気だったのに!」

「とにかく混乱して全員バラバラになるのは不味い。だからアルベルト、頼んだ」

「承知した! 今こそ俺の出番だな」


 アルベルトは右手の親指を立てると混乱を極める兵士達の中心に向かって駆けて行き、そして大声で叫んだ。


「落ち着けーい!皆の衆!」


 いつもの奴からは想像出来ない程の真剣な様子で、しかし普段のお調子者の明るさを忘れず混乱する部隊に語りかける。全員では無いが多くの兵士がアルベルトの方に注意を向ける。


「お前ら混乱しすぎだー! 俺たちには勇者様御一行がついてる! 何を恐れる事があるんだ!?」


 勇者と言う単語を使い、兵士達に少しの落ち着きを与える。やっぱ言葉のチョイスうまいなこいつ。


「けど俺たちが混乱してたら生き残れるもんも生き残れねー! 俺は俺の嫁の為に生きて帰らなきゃならねーから、お前らと心中するつもりなんて絶対に御免なんだぜ!」

「お前の都合じゃねーか!」


 超個人的な理由を振りかざすアルベルトに兵士からブーイングが入る。この空間に余裕が出来てきた証拠だ。


 「とにかくこのままじゃ勇者様御一行の足手まといだ。もう一度基本の隊列を組み直し、ドラゴンを正面にして少しずつ後退しながら戦線維持だ! 絶対に突破させるな! 怪我人の補助を忘れるなよ!」

「「了解」」

「絶対バラバラになるな! 魔法部隊は対空結界を張って全力で上空の道を塞げ! あと余裕ある奴は他の部隊に走ってこっち側に援軍が回せないか確認。それから……」


 アルベルトは他の兵士達にテキパキと指示を出す。正直ドラゴン相手ではどこまで効果があるかはわからないが、目的を明確に与える事で兵士達の不安を取り除き団結を深める。


 ……流石だアルベルト隊長・・。いつもその位仕事してれば、上から罰として掲示板の警護とか命じられないのにな。結局俺がやったんだけど。


 指示を出し終わると、アルベルトはこちらに向かってくる。


「お前はどうするんだ?」

「……何人かの結界部隊と一緒にクラリスの支援に回ります。多分私が一番意志疎通できるし、何かあった時隊長との連絡もとりやすいです。それにいざとなれば軍隊支給の通信魔法具がありますから、隊長達に助けを要請できます。なので宜しいでしょうか?」

「敬語なんて気持ち悪いぞ」

「今は隊長と一兵士でございますですよ」

「敬語下手だなぁ。つーかそれなら始めからしろっつうの。……頼むぞハルイチ、お前なら任せられる。死ぬなよ」


 アルベルトは俺に向かって片手を上げ、兵士達の方へ戻る。


 さて大きい事を言ったものの、俺に出来る事なんて限られているんだけどな。結界を破られまいと奮闘し動けなくなっているクラリスの替わりに魔力を供給してあげる事だけ。俺自身にそんな力は無いから、あらかじめクラリスが調合していた魔力回復の薬を運んだり、あとは周りの状況を確認して伝える事くらいだ。


 恐らくクラリスの結界が破られたら一貫の終わり。ドラゴン相手じゃどれだけポンドルの兵士達が奮闘しても、突破され尋常じゃない被害が出る。だから勇者一行の誰かが援軍に来るまでの持久戦だ。


 俺は状況を説明する為にクラリスの元へ駆け寄った。


「後ろの隊列の混乱はうちの隊長が納めた。アンタの調子は大丈夫か?」

「……ハルイチさん、ですか? 私は大丈夫、まだ持ちます。だからハルイチさんも早く避難を!」

「俺はあんたの支援にまわる。だから何なりと使ってくれ」

「危険です! 恐らくこのドラゴンは」


 そう言葉にした瞬間、上空で大きな爆発が起こる。結界生じたあまりに大きな衝撃にクラリスは声を悲痛の声を上げた。


「大丈夫か!?」

「……おそらくこのドラゴンは、魔法を学習できる上位種です。さっき急に現れたのは、こちらの認識を阻害する魔法を使用していた為かと」

 

 ドラゴンの上位種。本では読んだことがあるが、実際に存在しているなんて思わなかった。突然変異で現れるこの種類は魔力を強く持っており、魔法を学習して習得してしまうと言う。


「きっと何十年か前にこの子供のドラゴンが生まれ、親がこのドラゴンに魔法を教えたんだと思います。魔法が使えないとはいえ元々ドラゴンの知能は高いですから、自分の長年の戦いの経験を使って狩りを教えるようなものだったのでしょう」


 確かに向こうの親ドラゴンに比べたら一回りほど小さい。けれど俺にとっちゃ絶望的な大きさである。


「まじかよ……」

「けれどここまで子供ドラゴンが発見されなかった理由って……きゃあぁぁ!!」


 容赦無くドラゴンの攻撃は続く。クラリスの体力はもう限界近く見えた。すぐさま俺は魔力回復の薬を使用する。クソ、援軍はまだ来ないのかよ!?


「クラリス!」

「あ……りがとう……。けどごめんなさい、もう逃げて。想像以上の魔力です。もし結界が破られたら、私がドラゴンを引き付けるから……だから今の内に逃げてください」

「他の奴には伝える。けど俺は」

「お願……い。今度は私があなたを……」


 クラリスは強がる様に微笑む。しかし次の瞬間、轟音と共に何かが割れる音がする。衝撃に一瞬目を瞑った。


 そして次に目を開けた瞬間、絶望が目の前に降り立っていた。

 

 ……ついにドラゴン様とご対面である。


 

 

  

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