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チート勇者の裏側で ~君の為の英雄譚~  作者: たなぼたもち
本編【君の為の英雄譚】
2/13

選ばれし者。選ばれなかった兵士。

 ※ ※ ※



 燃え盛る火炎の中で、大小二つの影。そして一人の泣き声。


 泣いているのは大きい方の影だった。


 結局自分には何もすることができない。本当にいつでもどこでも平凡な一般人なのだと、大きい影は自分の弱さを嘆き、それでも小さい影を守ろうと必死に抗う。


 その姿を小さな影はじーっと見ていた。


 その小さな眼にはその姿はどう写り、何を思ったのだろうか。



 ※ ※ ※


 

 マジすげぇなぁ……


 野営地近くの平原で作戦通りの隊列を組み、ドラゴンWith魔物の群れに備える我らポンドル後方援護部隊。少し離れているとはいえ、初めてこの目に写るドラゴンの姿に俺は圧倒されていた。誇張表現でもなく、本当に岩山が空を飛んでいる感じ。あんなの人間が敵うわけないだろ。


 しかし驚くのはそこでは無かった。その巨大なドラゴンに一歩も引かず、正面からやりあっている人間達が存在していると言う所だ。


 ドラゴンの横や死角から奇襲を仕掛け足や翼を狙い動きを封じる女武闘家。いろいろギリギリな衣装という事もありポンドル後方部隊で思わず見とれてしまう者もいた。


 足場の悪いこの湿原でもその身のこなしが封じられる訳でもなく、縦横無尽に戦場をかける少女。その少女の元来の身体能力の成せる技術だ。


だがもう一つの理由としては至るところに張られた足場の役割を果たしている魔方陣だろう。その魔方陣を張っているのは常にドラゴンの斜め後方に位置を取る黒のローブを来たエルフの女の子らしい。


 足場を得ている武闘家の少女はそれを利用し、グッとその場で膝に力を溜める。そしてドラゴンの右前足に向かって飛び、渾身の蹴りを放つ。それは足払いのような形になり、なすすべもなく攻撃を受けたドラゴンの体勢が崩れた。


「リズ!今だよ!」

「あいあいさー」


 リズと呼ばれたエルフの少女は、あらかじめ発動していた魔法をバランスを崩したドラゴンに向かって放ち、更に間髪入れず追加で呪文を唱える。ちなみにあの武闘家の声はこっちまでぼんやり聞こえてくるが、エルフの子の方はほぼ聞こえていない。


「ファイヤーボール!」


 無数の炎の塊がドラゴンに向かってまるで弾丸の様に襲いかかる。あそこまでの大規模の魔法は見たことが無かったので、ポンドルの兵士たちはワクワクした様子で歓声を上げる。お前らは映画でも見てんのか。


 リズの魔法の弾丸に気をとられているドラゴンの死角から、武闘家の更なる追撃が入る。あの固いドラゴンの皮膚に思いっきり打撃を加えてるのを見ていると、何故か俺がすごく痛々しい気分になった。


 そしてリズが魔法を放ちきった時、武闘家が攻撃を一瞬止め後ろに飛び退く。


「アカツキ!」

「頼んだよ~」


 大声で叫んだ二人の声が重なった時には、もうアカツキはドラゴンの正面から斬りかかっていた。手に持つのは噂のグリフォニアの伝説の剣。上に高く飛び上がり、真っ向から攻撃を加える様はまさに勇者。放たれた一撃はドラゴンの皮膚をも切り裂き、ドラゴンは悲痛の声を上げる。ポンドル兵士は歓喜の声を上げる。なんなのよこいつら。


 しかし本当に勇者って奴は凄い。いとも簡単にあのドラゴンにダメージを与えるなんて。


 前線二人が更なる追撃を加えようと抜群のコンビネーションでドラゴンを翻弄する。その間にリズはこの後方部隊の方に魔法で文字通り飛んできた。


「クラリス~、回復回復~」

「うん。すぐにするね」


 クラリスと呼ばれた少女は先程の白ローブの女の子だ。彼女はここ後方支援を担当している。呪文を唱えるとリズの体は光に包まれた。


彼女はこの世に滅多に居ないとされる、治癒魔法と魔力回復魔法の使い手だと先程アルベルトに聞いた。彼は奥さんと共に勇者一行のファンらしい。俺は妻一筋だけどな! とか要らない情報まで教えてくる。帰ったら奥さんに鼻の下伸ばしてましたと報告してやろう。


「リズ、戦況はどう?」

「思ったより丈夫だよあいつ。私はターニャみたいに体力バカじゃ無いから、何回か補給に戻って来ないとね~」

「ここは私たちが守るから、いつでも戻って来てね」

「さっすがクラリス~。よし、んじゃ第二ラウンド言ってくるよ~」

  

 そう言ってリズは先程自分が放った魔法の様に、弾丸で戦場に舞い戻る。


 さりげなく出たラウンドと言う言葉に、俺はアカツキ転生説の確信材料がまた増えたと思った。


 ……しかし圧倒的だな。俺達の出る幕本当に無いみたいだ。その気持ちは先程から興奮しているこのポンドル部隊からも伝わってくる。油断しているわけでは無いが余裕がある、と言う解釈が正しいだろうか。


 戦場はドラゴンを中心に、周りの魔物の群れを勇者達に近づけぬよう各国の兵士で組織された連合部隊が押さえていると言う形だ。各隊にはそれぞれアカツキの仲間達が加勢している。だから戦局は悪くは無い。


 そして我らが後方支援部隊は傷ついたり疲労した兵士達と随時交代しながら各隊の援護をや手当てを行っている。その中心がクラリスだ。


 先手は取られたがそれをものともしない勇者の精鋭達や各国の精鋭軍。頼もしい限りだ。


「やっぱすげえな! 楽勝じゃんか!」


 アルベルトがニコニコでなあ、と同意を求めてくるが俺はそれを無視する。闘いはまだ終わっていないのだ。クラリスも当然それをわかっており緊張の表情を崩さない。


 ……本当に頼もしい限りだ。やっぱりこいつら勇者一行は俺なんかとは違う。潜ってきた修羅場が違うんだろう。


 そう思いながら嫉妬してしまう自分に少し嫌気が差した。俺は結局この戦場でも必要とされないみたいだ。やっぱり家でのんびり寝てた方が有意義だったかな。……今はそんな風に自虐できるほど俺には思考の余裕があった。


 だから余計なことまで考えてしまうのだろうか。何かが心に引っ掛かっている。俺はその引っ掛かりの原因を探るためしばしその場で考え事をする。


「大丈夫ですか? 気分はどうでしょうか?」


 ふいにクラリスが微笑みながらこちらに向かって話しかけてきた。兵士の緊張を解きほぐそうと先程からこうやってこの後方陣地に居る兵士達に声をかけているようだ。お陰で少々余裕があるとはいえ、皆が緊張しすぎずいつでも最善の動きのできる雰囲気になっている。


「俺は別に問題ない。周りは田舎者ばっかだから少々抜けてるような気がするけど」

「みなさんには本当に助けられています。ここに運ばれた怪我人も辛くならずにリラックスできているのはポンドルのみなさんが明るく盛り上げてくれているからです」

「あんた聖人みたいな人だな……」

「そんな事ありません。私は私の出来ることをやっているだけですから」


 そう言って力強く微笑む。自分の役割を理解しそして自信を持っている顔だ。今までのこれまで見た表情の中で、一番美しいと感じた。そんなに見た訳じゃないけれど。

 

 その顔に更に頼もしさを覚えた俺は、先程から考えていることを相談することにした。


「……あんた、この戦況をどう思う? 正直に答えてくれ」


 俺は少し声のトーンを下げ、クラリスにそう切り出す。雰囲気を察したからか、クラリスの表情も険しくなる。


「有利、です。こちらが押している事は間違いありません。ただドラゴンの様子が気になります。想定よりも荒々しさが無い。逆に防御的というか、最初から守りに入っている感じがします」

「ドラゴンがなにか企んでいるってのか?」

「ドラゴンにそこまでの知能がある前例は今まで聞いたことがありません。ただし前例が無いだけ。だから様々な事を想定しておかないと」

「用心深いな」

「皆さんの命も預かっていますから。もちろん、ハルイチさんのも」

「……そりゃどうも」


 あれ、俺この人に名前教えたっけな? まあアルベルトあたりに聞いたのだろう。


「戦場は生き物です、最初の考えや作戦に囚われてはいけない。……って、アカツキさんから教わったんですけどね。何でもアカツキさんの国の隣の偉い方の戦術なんだとか」

「……孫子かな。もうちょい戦場の地形にこだわった方が良いような気もするけど、魔方陣の足場でカバーとかかな?」

「あ、そうそう孫子様です、って、なんでハルイチさんが知っているんですか?」

「そこそこ有名人なんだよその人……とりあえず、警戒はしとかなきゃな」


 説明がめんどくさいのではぐらかす。クラリスもそれ以上は追求せず、話を本筋に戻す。


「そうですね、だから私も全体の警戒を怠っていません。特に警戒すべき……は……!?」


 急にクラリスの表情が一変し、その場に膝をついた。その様子からただ事ではないと察した俺はすぐさま警戒体勢に入る。


「どうした!? 大丈夫か?」

「後方に張っていた二重結界の一つ目が破られました。特に警戒していた場所なのに、いったい何が……?」


 俺は周りを見渡し、そしてその存在に気づく。


 それは後方支援部隊の真後ろ。


 その決してあり得ない方角に存在していたあり得ない存在。


 もう一匹のドラゴンが宙を舞い、空を見上げた俺を睨み付けていた。

 


 


 

想定より長くなったので、更に続きます。

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